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散歩がてらに 地の果てへ …5…
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……地の果て……

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「……あんたたち、まだやってたの…」

一晩たっても、その戦いに決着は付いていなかった。巨大な結界が張り巡らされた闘技場で、青年と魔王は戦っていた。どっちが相手を抱くかという、くだらないと言えばくだらない、本人達にとっては非常に重要なことを賭けて、二人は争っている。どっちもが、抱かれるのなんぞはまっぴらなので。

闘技場は、古代図書館の一角に、ニアがその管理者権限と魔力でもって、用意した。本来は、不法な侵入者を排除する時、戦闘が起こっても図書館に被害を出さないために使用するものだ。まぁ、職権乱用というか。

一晩かけた争いに、終わりは見えない。どちらもが、次第に疲弊してきている。体力のある青年の方が、いくらか優勢に見える。だが、外傷は青年の方が多い。リーチの関係だろう。青年の攻撃手段は近距離のみのため、魔法での攻撃を近距離・中距離・長距離と、自在に操る魔王にいくらか押されてきているのだ。

「…………あんたたち、まぁだ、やってんの…?」

二晩たっても、その賭けに決着は付いていなかった。二人ともボロボロだ。何しろ、争っている間に、休憩というものは一切無い。飲まず食わず眠らずの、ぶっつづけだ。青年は持ち前の体力と気力で戦っている。魔王は、有り余っている魔力を身体を維持するためのエネルギーに変換して、戦っている。青年の体力が尽きるほうが早いか、魔王の気力と集中力が切れる方が早いか…分からない。

結界の中では、魔法を放つタイミングを計る魔王と、それを迎えてなおかつ魔王へ踏み込むタイミングを計っている青年が、対峙していた。その緊迫状態を、ニアが破る。二人の戦いから古代図書館を守っていた結界が、一時的に消失する。ニア曰く、一時休戦したらどーなのか、と言うことだ。疲れ切っていた二人は、間にニアを挟むことにより、それを承諾した。

疲れた二人が、お互いをにらみ合いながらも、その場に崩れる。……つまりは二人ともが限界だったということだ。意地っ張りがふたり。

がしゃこん。
がしょこん。

二人が気づいたときには、魔法具技術者の爺が、双方の左腕に、ごつい鉄の輪をはめていた。

「なっ…?!」

「貴様…!」

二人が驚いて、急遽攻撃態勢に移るが、それも一瞬。

「はい、ぽちっとな」

二人を繋いでいる鉄の輪から更に伸びたコードの先…ニアが得体の知れないスイッチを押していた。

「っぎゃああぁぁああぁぁぁ…!」

「うぁ、あぁ、あぁあぁあ……!」

二人分の絶叫が、古代図書館内にこだました。。。



事の始まりは、ニアの提案。いくら話し合いをしようとも、双方の間で「どちらが相手に抱かれるか」という問題は、解決を見なかった。……もっとも、青年と魔王の噛み合わない会話を「話し合い」と言うことが出来るのか、それがそもそも疑問だが。

「地の果てへ行く必要があるのだ」

「てめぇに抱かれるのなんざ、ゴメンだな」

「行くためには、必須なのだが?」

「あんたが、自分が下になる努力をするべきだろ」

「今更、行かぬというのか…?」

「てめぇを抱いて行ってやる、っつってんだろ!」

大体の場合ここらへんで、二人は臨戦態勢に入る。そして、呆れたニアに図書館から放り出されていた。それを何回も繰り返して、ようやく二人の話し合いは無駄だということを悟ったニアが、提案したのだ。

「場所は提供するから、その問題を賭けて、心ゆくまで戦ったらどう?」

二人はその提案を快諾した。そして、その結果はというと…。

王城の一角、王族付き魔法医の治療室。患者が寝るためのベッドに、青年と魔王が寝ていた。魔王のベッドがいくらか豪華なのは、やはり王様だからだろうか…。二人とも、絶叫を上げた後に気絶し、ここへ運ばれてきた。それから、3日間が過ぎている。

先に気が付いたのは、青年だった。体力の違いだろう。

「……っ?!」

がばっと起きあがって、それを魔法医に制される。

「ニアっ!…てめぇ、許さねぇぞ…!! あの激痛はいったい何なんだっ?!」

一息に叫んでから、青年はようやく叫ぶべき相手を間違えたことに気づいた。

「あれ? ニアじゃない?……それより、ここ何処だ?」

青年は改めて室内を見渡した。古代図書館ではない。とゆーことは、古代図書館から出られないニアが、ここに居るはずはない。隣を見たら、魔王がまだ寝たままだった。……だったら、寝ている内に逃げておくべきである。青年は素早くそう判断すると、魔法医のしばらく安静にしてろという言葉を無視して、部屋を飛び出した。

行き先はもちろん…古代図書館だ。

「あら、寝なくても良くなったんだから、いいでしょ?」

古代図書館でニアをとっつかまえて、開口一番文句を連ねた青年に対するニアの言葉はこうだった。

「……へ?」

「気づいてないの? あの装置は、魔力の強い対象から、強制的に魔力を引き剥がし、魔力の弱い対象へと、無理矢理に魔力を突っ込むための装置なのよ。……まぁ、だから激痛を伴うんだけど」

青年は、改めて自分の身体を確かめていた。最後の記憶は魔王との戦闘だが、その時は無かった魔力が確かに身体の中に存在していた。

「ということは…。……っ…!」

魔力を確かめるために、青年が何か魔法を使おうとしたらしく、捻った手の中で微かな煌めきが見えた。……だが、それだけだ。魔法は成立しなかった。

「他人の魔力は使いづらいでしょ」

「仕方ねぇか…果てしなく続く空に連なるものよ、我が呼びかけに応えよ」

青年が、極初歩的な精霊召喚魔法の呪文を唱えて、手順を省略せずに魔法を呼び出す。手の中に、さっと風の精霊が現れ、舞うように礼をすると、かき消えた。

「まだ安定してなくて上手く使えねぇな」

あっという間に去っていった精霊を捕まえ損ねた指先を、閉じたり開いたりしながら、青年がぼやいた。それを母親のような目で見守るニアが、気楽に青年の右肩を叩く。

「ま、そのうち慣れるわよ」

「それより、あの装置があるなら、あの戦いは無意味だったんじゃないのか?」

「あら、意味はあるのよ? あの道具、対象者の抵抗が強いと使えないの。だから、戦わせて戦わせてよれよれになって抵抗力が弱まったトコを狙おうとしたわけ」

ニアの話しによると、どうやらあの戦闘の話しを持ちかけたこと自体が、ニアと魔法具技術者の共謀作戦だったらしい。騙されて戦い疲れ、更には3日間も寝込むような激痛を体験させられた。それに対する文句が、青年の中に渦巻く。……渦巻いていたのだが。現実、自分に魔力がある……青年は、募っていた文句のはけ口を失った。文句の言いようが無かったので。

「……。…じゃぁ、とりあえず調べるか…」

文句を言うことを諦めた青年は、もっと前向きに現実的な事へ目を向けた。地の果てと書かれた青い背表紙の本を抜き取る。魔力を得ても、まだ地の果てへの行き方を調べてなかったのだ。…最も、魔王は知っているようだったから、知らなくても問題無いのかも知れないが。それはそれ、青年のプライド(?)と意地の関係だ。

「そもそも、地の果ての存在定義を知ってるの?」

「……それくらいは調べたさ。初代魔王が作り上げた、この古代図書館と似たような仮想空間だろ」

「ちょっと違うけど、そんなもんよ。そもそもこの古代図書館というのが、地の果てと称される空間を作成するための、試作品だったの。で、地の果てっていうのは〜……」

得意満面で話し出すニアの前に、青年の掌が突きつけられた。

「ぃや、地の果てとは何なのかとか、何故存在するのかとか、作成された過程とか、そんなんは要らない。行き方は?」

不服そう、かつ、不満そうな顔をしたニアを見て、青年は慌てて、

「先にそっちを教えてください」

丁寧だが棒読みな口調で、言い直した。

「……仕方ないわね。貴方が持ってるその本の、一番最後のページを見て」

言われたとおり、持ったまま開いていなかった本を捲る。一番最後のページには、「入り口」とだけ描かれていた。つまりは、ここから入るということなのだろうか。

「基本的にここにある本から繋がっているのは、古代図書館の内部のみ。けど、地の果てだけは違うのよ。古代図書館内だったら、図書館の魔力が利用者を目的の部屋に運んでくれる。……けど、地の果ては図書館の外へ繋がってる道だから、その当人の魔力が無いと、行くことが出来ないのよ」

「……そうか、それで魔力が必要っていってたのか」

「そ。でも、地の果てへの入り口はここ一つじゃないのよ、実を言うと。そもそも、何で地の果てって呼ばれてるかというと、地の果てにあるからなんだし」

「実際はどこにあるんだよ? 地図には載ってねぇぞ」

「載ってるわけないでしょ! 地図に書いてあったら、誰もこんな図書館まで調べに来たりはしないんじゃないの〜?」

確かにその通りである。地の果てに関する更なる文献を求めて、古代図書館へ来た青年は、大人しく口をつぐんだ。魔王よりも、ニアの扱いを心得ているようである。そのニアと言えば、聴衆に成り下がった青年を見て、満足そうに笑った。……この分なら、快く色んな事を教えてくれそうだ。青年は打算を巡らせて、講義を拝聴することにする。

「この世界が、神々の世界の端から吊されていることは知ってるわよね」

「あぁ、もちろん」

ニアが言うように、青年が生きる世界は…魔王が納める国がある世界は、神々の世界から吊された紐で、宙に浮いている。ハンギングバスケットの中に、この世界が収まっている、というようなイメージだ。その中でも、青年が住み魔王が納めるこの国は、一番西に位置する。だが、この国より更に西のことは、誰も知らない。……知ろうともしないというか、どうでもいいと思われているというか…。みんなの認識としては「きっとこの世界の終わりがあるんだよ」という程度だ。

「で、この国が最西端にあって、更にその西側は一般に知られてないのも、知ってるわよね」

「あぁ…一般常識的には、更に西側には何もない、だろ?」

「何もないわけじゃないんだけどね…。ま、そこが所謂『地の果て』…世界の果てと呼ばれる場所。そこに、初代魔王が作った門があるのよ」

「……門? って、地の果てへの???」

「そう。初代魔王が研究して、その一生を捧げたのが、有限空間を無限化する魔法理論。その成果が地の果て…と、この古代図書館よ。この古代図書館にもちゃんと入り口があるでしょ。……ま、無視してる人も約一名居るけど?」

魔王のことだ。

青年は、乾いた笑いを口の中で連発させて、その話題をやり過ごした。

「その門を開くには、鍵が必要なの……ここと一緒ね。あたしみたいな管理者も存在するし……あっちの方が絶対性格悪いけど!」

ニアに性格が悪いと言われる、魔法疑似人格の「管理者」とは、いったいどんな相手なのだろうか…。青年は聞きたくなったが、ニアの機嫌をこれ以上損ねるのは得策ではないと判断してやめた。何しろ、行ってみれば分かることなのだ。

「鍵がない者が地の果てに入ると、不法侵入者として排除されるのも、ここと一緒よ」

「……で、鍵はどうやって手に入れるんだ?」

「……。………そうよね、考えてみたら、地の果てが実際何処にあるか知らない貴方が、鍵を持ってるわけ、無いのよね」

魔王が、当然のように今すぐ行くようなことを言っていたから、気づかなかったのだ。

「鍵の入手方法だけど。この図書館みたいに、鍵の契約を行う儀式みたいなものは存在しないの。門に記された課題をクリアすると、管理者から鍵を貰える仕組みになってるから。……多分、魔王はきっとその課題をクリアしてるんだとは、思うんだけど…」

あのオーサマのことなので、どっちとも言えないところだ。あっさりクリアしてそうな気もするが、面倒くさがってそもそも手を出していない気もする。ニアの口振りから行くと、魔王ならクリア可能であるような様子だが。

「難しいのか?」

「簡単じゃないわ。鍵を構成するのに必要な材料を集めさせるのよ、確か。で、後は地の果てを構成している魔法理論を模した立体パズルを解かなきゃいけなかった気がする」

ニアはそこで一度言葉を切って、ちらりと青年を見た。

「後必要なのは、魔力。鍵を作ってもらう時、鍵作成に必要な魔力は、本人の魔力を使うの。……相当の魔力が必要なのよ。それだけの魔力を鍵に吸い取られても生きていられないと、失格ってことね」

「……なぁ、さっきニアも言ってた通り、俺はその鍵とやらを持っていないわけなんだけども。あのオーサマは今すぐ行くようなことを言ってただろ。それって不可能に思えてきたんだけど?」

「あたしも、今すぐには無理だと思うんだけど……」

だけど…魔王が行くと言っているのだ。どうにかして無理矢理な手段を講じて、行くような気がする。青年の口調が断定ではなく疑問系なのは、そういう理由からだ。ニアの語尾が濁るのも、そういう理由からだ。そんな二人の間に、急激な魔力の収縮が起こり始めた。

「魔王が目覚めたみたいね」

二人はさっとその場から遠のいていた。そして、その場所にニアが言ったとおり、魔王が現れていた。

「ニア、貴様…!」

やはり、そうとう怒っている。魔王を宥めて説明するために、ニアは青年に対する説明の倍の時間を掛けなければいけなかった。

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……地の果て……

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