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散歩がてらに 地の果てへ …6…
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……地の果て……

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ようやく魔王が落ち着いた。ニアは、魔王の容赦ない攻撃から図書館を守るために、大がかりな結界を何重にも張り巡らさなければいけず、疲れた顔をしていた。……よく出来た疑似人格である。青年は当然のように蚊帳の外で見物…出来るわけが無く。怒りにまかせて対象を選ばない魔王から、自らの身を守っていたため、やはり疲れた顔をしていた。

「それで、地の果ての鍵はどうするの?」

今すぐ地の果てへ行くとまた言い出した魔王に、ニアは聞いてみた。

「そんなもの、今から用意するに決まっているだろう」

「「……あぁ、そう。。。」」

やはりそんなことだろうと思った、という諦めにも似た溜息のような声が、青年とニアの口から漏れた。そんな二人を尻目に、魔王はなにやら目の前に様々な物を並べ始める。

「ちょっと、ここで魔法を使わないでくださいって、いつも言ってるじゃないですかっ!」

ニアの文句も虚しく、魔王は5種類、合計10個の品を出して見せた。

砂漠蛇の肝臓を100年月明かりで照らした干物。
赤い羽根の妖精が満潮の夜に摘んだ四つ葉のクローバー。
ペンギンに暖めさせたダチョウの卵から孵った雛。
999日間空を飛び続けたタンポポの綿毛。
湖一杯分の水を氷らせた万年氷。

「…もしかして、地の果ての鍵を作る材料か?」

きっちり二つずつ揃えられていく奇妙な品を眺めながら、青年が尋ねると、魔王ではなくニアが頷いてくれた。

「では、行くぞ」

「……は?」

また唐突に服を掴もうとする魔王の手を、避けながら青年は答える。宙を掴んだ手を忌々しげに戻しながら、魔王はいらついた様子で揃ろえた品を示した。

「早くしろ」

相変わらずな注文と共に、もう一度捕まえようと伸びてくる手を、青年はまた回避する。

「…あのな、どこへ行くつもりだよ」

この場合肝心な目的語が欠けている相手のために、仕方が無く尋ねると、

「地の果てだ」

「……何のために」

いちいち聞かないと答えてくれないのは、自分と同じ認識を周囲もしていて当然、と考えているからだ。自己中心な魔王ならではである。そんな自分勝手さに付き合いきれない青年は、苛々が頂点へ向かってきている魔王から一歩離れた。

「鍵を手に入れる必要があるだろう」

「で、何で今行く必要があるんだ?」

とうとう、魔王の周囲に魔力が集まり始めた。突然、細いニアの腕が青年の背を押した。

「うぉっ!」

つんのめった先には…魔王。

「てめぇ、ニア、何のつもりだ!」

当然青年の腕を掴んだ魔王から、逃げようと青年がもがく。もがきながら怒鳴った声に対し、ニアはにっこりと笑って見せた。

「ゴメン、これ以上ココを荒らされたくないのよ。貴方の尊い犠牲は忘れないわ」

感情のこもっていないニアの言葉は、魔王に強制転移させられて消えかけていく青年に、最後まで届かなかった。



青年と魔王は、地の果てに来ているはずだった。……こんなに簡単に来てしまって良いのだろうか。青年はぼんやりと考える。海水に浸かりながら。しかも、さっきから立ち泳ぎをしっぱなしなので、そろそろ疲れてきた。そういえば、一応病み上がりな身体だったのだが。魔王と言えば、前方を見ながら、海の上をゆったり浮いて移動していた。

そう、見渡す限り海だった。どの方向を向いても海だった。

本当は、ここはどこなのかとか、地の果てへ行くはずが何故海の中へ落ちたのかとか、沢山聞きたいことがあるのだが、青年は諦めていた。実は、あまりにも遠い距離を魔法で移動しようとしたため、場所を計算し間違えたのでは無いだろうか…と魔王を疑っているのだが。疑っていても、それを口に出す勇気はなかった。

魔王は、空中を移動する魔法と、探知魔法とを二重で使用しており、集中力の限界が近いようだった。おそらく、地の果てを探しているのだと思われるのだが。

「……見つけた」

魔王は言うなり、青年に魔法をかけ…避ける気力も無い青年はあっさりと宙へ浮いた。海面上にざばざばと水が落ちる。ずぶぬれになった青年の腕を魔王が掴み…再び移動。

「あのな、何のために移動したんだ?」

移動した先も、やっぱり海だった。

「ふん、目の前にある物が見えぬのか」

「……?」

「仕方があるまい」

魔王の指が伸びてきたのを、反射的に避けようとしたが、青年を空中へ維持しているのが魔王である以上、逃げようがなかった。細くて白い指が青年の瞼に触れる。それが離れたとき、青年の目の前には、巨大な門がそびえ立っていた。

「……!」

「強い魔力を持つ者のみが、見ることを許されるように魔法がかけてあるのだ」

それで、魔力をさっぱりと持たない青年が、見えなかったというわけだ。青年は以前にも、この門に似たものを見たことがあった。古代図書館の(内側から見た)扉だ。ただ、異様な点において、目の前にある門の方が秀でていた。……異様さに秀でていても仕方がないが。

それは、突然海の上へ立っている門であり、門のすぐ後ろは、何もなかった。……つまり、世界の果てに立っているのだ。海が、どこかこの世界ではないところへ落ちていく、ぎりぎりのライン。少し間違えれば、世界の果てへと落ちてしまう…そんな危険な場所。

門の表面にはきらびやかな装飾が施されており、ありったけの魔法を芸術につぎ込んで作ったような、魔法技術の結晶のような装飾だ。表面はきらきらと虹色に輝き、その一瞬一瞬で形を変えていくように見える。それによって映し出される幻影は、なめらかな動きで持って世界を構成する理論を、図式化して描き出していた。そして、門の中央には、文字が記されている。

「古代文字か…」

「知っているのか」

「魔力はなくなっても、知識は残ってるからな……一時期、興味があって勉強した」

古代文字とは、その名の通り、むかーし昔に使われていた文字のことである。初代魔王の時代は昔だったので、初代魔王にとっての日常文字は、今、古代文字として扱われていた。その文字で、門には先ほど魔王が用意した材料の名前が羅列してあった。

「『汝が供物を揃えて門を叩きし時、求めたるものは与えられん』……ということは、さっきの材料を持ってこいつを叩けばいいってことか?」

最後の一文を読んで、何気なく聞いてしまってから、

「私に聞くな」

青年は後悔した。ニアが居れば答えてくれただろうが、今ココにまともな受け答えをしてくれる相手は居ないのだった。悪かったな、と視線を逸らそうとする青年の手に、「供物」一式が押しつけられた。見れば、魔王はもう門に向かって進んで行っている。…そして、魔王の魔法によって浮いている青年も当然、門方向へ勝手に進行中だった。

最初に門のすぐ側へたどり着いた魔王は、早くも門についている金具を打ち、門を叩いていた。青年がすぐ横へ着くうちに、魔王の手の中へキューブがどこからともなく落ちてくる。どうやら、ニアの言っていた立体パズルらしい。手の込んだことをしているなぁ、と青年が感心しているうちに、魔王はそのパズルを手の中でくるくると回し、あっという間に解いてしまった。

……重たい音を立てて、門が開いていく。

「こんなに簡単に開いちまって、いーのか…?」

普通、物語などならば、苦労の末開ける場面のはずなのだが。門の内側から光や闇が漏れてきたりすると、もっと効果的だ。門が開いた先を青年が覗き込むと、元々門の向こう側にあった、世界の果てが見える。世界のはじっこから海水が落ちていく瞬間が目の当たりになる。青年は感謝した。魔王の魔法によって宙へ浮いていることを。…もっとも、声に出して礼を述べたりはしないが。

門の内側に、うっすらと何かの輪郭が浮かび上がる。次第に見えてくるのは…ふわふわの虹色の髪、華奢な身体のライン。はっきりとしてきたその姿は…透き通るような白い肌、一瞬一瞬で色を変える虹色の瞳。誰かさんにそっくりな外見をしている。ということは…

「お前が地の果ての管理者か」

ニアとの違いは、髪の長さくらいだろう。ニアは腰までふわふわの髪を伸ばしているが、目の前の相手は肩上までと短い。

「その通りで御座いますわ。わたくし、地の果てを管理しております、ファーと申します」

儀礼的な一礼。不意に青年はニアの言葉を思い出していた。曰く、『あっちの方が絶対性格悪いけど!』。

「地の果ての鍵を作れ」

「かしこまりましたわ。貴方様お一人の鍵をお作り致しましょう」

「私と…ついでに…」

魔王が言いながら青年の方を見る。それを受け、魔王の後を、青年が次いだ。ついでなのか、という文句は飲み込んで置いた。

「俺の鍵も頼む」

「あら…申し訳有りませんが、そちらの方ではとてもとても…魔力が足りませんわ」

嘲るような高笑いが、言葉の後に続く。ニアの意見は嘘ではなかったようだ。げんなりしながら魔王を見たら、心底面倒くさそうな顔をしていた。

「今にも尽きてしまいそうですわよ…鍵よりお命の心配をするべきですわね」

また、おほほほ……という高い笑い声が上がる。ファーに言われたとおり、青年の身体にあった魔王の魔力は、大分残量が少なくなっていた。もともと自分の魔力ではない上に、青年には魔力を体内に留めておくのに必要なものが存在しないので、貰った魔力が流れ出てしまっているらしい。ちらりと青年を見て、それを確認した魔王は、

「帰るぞ」

「へ?」

突然、青年の腕を掴んで転移魔法を使用した。青年が事態を把握したときには、目の前のファーの姿が遠のいていた…。

「ちょっと! 失礼じゃありませんこと! わたくしを呼びだしておきながら…っ!」

文句も遠くに聞こえ…すぐに聞こえなくなった。



王都、王城の一角…自室へ向かって魔王は歩いていた。手の中には、未だ「地の果ての鍵の材料」があり、かなり立腹した様子で、歩調も荒く進んでいく。滅多に姿を現さない魔王が、機嫌も悪そうにしている所へ、誰も近寄ろうとせずに女中も遠巻きにその姿を眺めている。

そこへ、勇敢(?)にも、主席補佐官がやってきた。数日前、御前試合があった日に、ここへ来たばかりなのに、何をしに来たのだろうか。一度居なくなると、一週間〜一ヶ月は姿をくらます魔王にしては、早すぎる。まさか、政務をこなしにきたわけでも無かろう。だが、姿を現したときに捕まえておかないと、今度何時会えるか分からない。そんなわけで、勇気と無謀が紙一重な首席補佐官は、苛々オーラを振りまきまくっている魔王の背中に声を掛けた。

「魔王、お早いお帰りですね。散歩へ行かれるとか仰っていらっしゃいましたが……」

散歩に数日もかけていたわけではないだろう。そもそも、この魔王が散歩をしている図など、全く持って想像出来ない。

「散歩がてらに、出かけたまでだ」

自室の前にたどり着いた魔王は、一度補佐官に振り向くと、苛立ち全開な口調で投げるように言い放った。そして、ローブの裾を翻して部屋へ姿を消した。補佐官の目の前で、音を立てて扉が閉められる。

散歩がてらに地の果てまで足を伸ばす魔王を、仕えるべき君主として持った補佐官は、一人その場に残された。

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後書きもどき

前回の「ちょっとそこまで地の果てへ」というタイトルを考えるとき、第二候補に「散歩がてらに地の果てへ」がありました。だったら、そのまま今回使っちゃえ〜…ということで、こんな話になりました(笑)。

しかし…次のタイトルはどうしよう。。。(遠) 誰かいいの思いつきませんか?(ぉぃ) 今のところ思いついているのは、「兎にも角にも地の果てへ」とか訳の分からんものなんですが…。散歩がてらと似ますが、「買い物ついでに地の果てへ」とか…うーむ。。。

次は、いよいよ地の果てへ行く予定です。多分…というか、希望。それに伴い、「青年が大量の魔力を所有するため」に、あーんなことや、こーんなこと(?)にもなる予定です(というか、なったらいいな、というか…ははは)。

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……地の果て……

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