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地の果て番外…黒き光…
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天を支配するは 黒き炎
午を翔しし 煉獄の熱
丑を覆いし 精霊の闇
右手に 太陽を
左手に 月を
我が力を贄に……
よどみなく流れ出る、言葉の一つずつが、単語を連ねるごとに力を持っていく。低くも無く高くも無く、早くも無く遅くも無い、単調な口調。それは、色も形も薄い、魔王の唇が源だった。だが、最後の一文に差し掛かったとき、
「ちょっと、待って待って待って、待ってくださいっ!」
古代図書館の一室、失われた禁忌の呪文の部屋(最高位の鍵を持つ者しか入れない)へ、唐突にニアが現れて待ったをかけた。ニアの目の前には魔王が居る。手に「禁じられた古代魔法 黄泉へ続く紅の巻」の冒頭が開かれている。そして、隻手には太陽と月の力を持った魔力が宿り、今にも魔法が完成されそうになっていた。しかしそれも、ニアに腕をひっぱたかれ、零れ落ちて消えていく。
「王さまっ! 何度言ったら分かるんですか、禁じられた呪文を試しに図書館内で唱えてみるのは、止めてください!」
「……ふん、邪魔が入ったか」
「最近、誰かさんのせいで、図書館の魔力が特に不安定なんです! これ以上被害を広げるおつもりなら、出入り禁止にするんですからねっ?!」
「しかたあるまい…」
「あ、ちょっとちょっと! 禁帯出!」
仕方ないとか言いつつ、先ほどの本を持ち出そうとしていた魔王の手から、本が取り上げられた。魔王のかすかな舌打ちが聞こえるが、そんなのニアの知ったことではない。さっさと魔王は追い出された。図書館が不安定になるとニアの機嫌も不安定になる。かといって、ニアの機嫌がよろしくなったところで、図書館が安定するとも限らないので、難しいところだ。
図書館を追い出された魔王が、たまたま図書館へ行こうとしていた青年に、ばったりぱったり偶然奇遇にも出会ってしまったのは、もしかしたら運命だったのかもしれない。青年は、機嫌よさげに王城の門をくぐり、庭を通っているところだった。そこへ魔王は放り出された。魔王に出会った瞬間、不機嫌度MAX、怒りゲージMAX、苛々パラメータMAXなのを見て取った青年は、賢明にも回れ右をした。即断だった。
「待て…どこへゆく」
しかし、間に合わなかった。
「あんたの居ねぇトコ」
逃げようとしたが、やっぱり間に合わなかった。
「それはちょうど良い…手土産に新しく得た魔法をくれてしんぜよう」
いつもどおり会話が噛み合っていないが、それはともかく、とにかく城門を一歩出たところで、青年は魔王に捕まった。門番は早々に避難している。見張りなんかしてなくても、この二人が門前で戦っていれば、誰も近づこうとしないので、問題はなさそうだ。とうとう青年は剣を抜いた。柄についている組み紐がゆれる。切っ先が魔王のほうへ向けて構えられた。
「ふん…そんな剣では防ぎきれぬ術を食らわせてくれる」
「やってみろよ、そんな魔法だったら、俺ごと王都まで消失するぜ」
「この都、国に特別な思い入れは無い故、問題ない」
「いやぃゃ、あんたオーサマだろーがよ」
真っ当な意見ほど、不機嫌な魔王の耳を素通りするものはない。第一打の魔法が発動する前に、青年は地を蹴って間合いを詰め、右上から下へと切り落とそうとする。実際切り裂かれたのは魔王の幻影のみで、攻撃直後の隙を狙って、今度こそ第一打が放たれる。それを咄嗟に上げた剣で受け、霧散させた。
再び間合いを詰めようとする青年の前に、10人の魔王がずらりと並んだ。もちろん魔法で作り出されたダミーだ。その全てが手にエストック(※1)を持ち、いっせいに青年へ向けた。
「ふん、レイピア(※2)にしておくべきだったんじゃねぇのか」
青年を周囲から追い詰めようとする、偽者の魔王たちに、冷笑を返す。10人のうちどれかが本物、などということは考えなかった。ただ、高く跳躍して、真後ろから投げられた炎の塊を避ける。ダミーの魔王たちはそれによって、消えうせた。青年の後ろへ回っていた魔王の、更に後ろに降り立つと、剣を振り落とす。微かに伝わってくる感触。それで生身であることを確かめると、追い込むべく一歩を踏み出す。
「…っ!」
二歩目を踏み出して剣を突き入れようとするが、咄嗟に行動をキャンセルし、身体を翻す。寸前まで青年が居た場所に、闇で出来た槍が叩き込まれた。
「ふん、それくら避けてくれぬのでは、つまらぬからな」
「よく言うぜ」
青年が足のベルトに止めてあるナイフを一本抜きざまに放つ。城壁に魔王のローブが縫い付けられた。
「ローブを裂いて逃げたって構わねぇんだぜ?」
「……必要ない」
「! まさか…」
「遅い」
天を支配するは 黒き炎
午を翔しし 煉獄の熱
丑を覆いし 精霊の闇
右手に 太陽を
左手に 月を
我が力を贄に 対なるものの融合をなし
我が心を糧に 相成りて姿を現せ
禁忌の魔法が、発動された。魔王を中心に、赤黒い闇が渦巻く、そしてその色濃い黒が次第に煌きはじめ…広がっていく。
「な…っ?!」
輝ける闇だった。暗いのに明るく、明るいのに暗い。矛盾したものを強制的に混ぜ合わせてくっつけたような、異様な光景だった。魔王を中心にその「光り輝く闇」は立ち上っていく。青年はとっさに動けるような体制をとりながらも、その光景を唖然と眺めた。
唖然と眺めているのは、なにも青年だけではない。王城の人々が、そして王都の人々も叫び始めていた。まず最初に誰もが、早すぎる夜が来たと思う。しかし、その闇夜は、明るすぎるのだ。昼間のように明るい暗闇…わけがわからなくなる。そして、混乱。どんどん広がっていき、空を支配していくに従い、混乱も広がっていく。
「……本気で王都を滅ぼすつもりか?」
「すまぬな…一度発動したら、止められぬ術ゆえ」
「なんつーことを…てか、なんていう魔法だよ?」
「黒き光、だ」
「…そのまんまじゃねぇか。。。てか、聞いたこと無いぞ、そんな魔法…まさか…」
「先ほどニアのところから拝借してきた、禁じられた魔法ゆえ、それも道理」
「ちょっとまて…この後、どうなるんだ?」
「知らぬ」
立ち上り続ける、光の闇。闇の光。黒き光。明るき闇。……もうなんだっていいが、このままじゃ、どんどん広がっていってしまう。青年は仕方がなく、魔王から立ち上る魔法を剣で一閃した。だが、一度途切れるもどんどん出てくる。
「………しーらねっと」
他人のことはどうでもよい。火の粉くらいは自分で払うべきだろ。この国の理論に従い、青年はさっさととんずらこくことにした。
「どこへゆく」
「……あんたの居ねぇトコだよ」
王都の住人の混乱をかいくぐり、青年は雑踏へと消えていってしまった。後には、魔法を垂れ流し続ける魔王だけが残される。。。
「それにしても…魔王さま、こんな魔法を何に使うつもりだったのかしら…?」
ニアは、先ほど魔王から取り上げた本をめくっていた。開いたのは、魔王が使おうとしていた魔法のページだ。
魔法名:黒き光。
概要:闇の明かりの出現。
魔法理論:物理をつかさどる右に太陽、精神をつかさどる左に月を配置する。太陽は熱・炎・光を意味し、月は黒・闇を意味する。太陽と月にそれぞれ、同じ波動の魔力を大量に与え、魔力を融合させることで強制的に太陽と月をも融合させる。
呪文:天を支配するは 黒き炎/午を翔しし 煉獄の熱/丑を覆いし 精霊の闇/↓/右手に 太陽を/左手に 月を/我が力を贄に 対なるものの融合をなし/我が心を糧に 相成りて姿を現せ
省略呪文:右に太陽/左に月/相成り黒き炎となりて 天を支配せよ
ちなみに、この魔法の禁止理由は…というと。闇であり明かりであるこの魔法は、闇なのに明かりという性質から、混乱が起きやすい。更に、大量の魔力を必要とするため発生規模の加減が難しい。そして、大規模発生すると全世界を覆うまでになり、民の要らぬ混乱を招く他、他諸国への迷惑が甚大となる。……そんな経緯で禁止となったのだが、魔王が好みそうな魔法ではないはずだ。
「ホント…どうするつもりだったのかしら。。。」
幸福なことに、ニアは図書館の外…王城の外…この国が今どうなっているか、知るよしはない……。
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(※1)エストック:細身の剣身の長い剣
(※2)レイピア:細くて軽い小剣
恒例の読み方から
てんをしはいするは くろきほのお
ひるをかけしし れんごくのねつ
よるをおおいし せいれいのやみ
めてに たいようを
ゆんでに つきを
わがちからをにえに ついなるもののゆうごうをなし
わがちからをかてに あいなりてすがたをあらわせ
後書きもどき。
会社でふと思いついた、くっだらない話。この後、この世界はどーなっちゃうんでしょーね。一週間くらいは混乱してそうですね。青年&魔王はきっと、それに乗じて色々悪事をはたらくのでしょぅ(笑)。
今、また会社で、地の果てのSSをちまちま書いているので(仕事しろよ)、また書き上がったら公開しよーと思います。
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