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ちょっとそこまで 地の果てへ …7…
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……地の果て……
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「……何時まで続ければ終わるのだ、これは」
「王、政務というものには終わりは御座いません」
「では、私は永遠にここへ座していなければならぬのか?」
「本来、王というものはそういうものに御座います」
「………」
青年とニアが話し合っているころ、魔王は政務室と王座を行ったり来たりしながら、たまりに溜まった仕事を片付けていた。それというのも…
「魔王にしか処理出来ない仕事を、ずっと放置なさっているからです」
魔王の母の代…つまり、先代の時から勤めている魔王補佐の一員が魔王を仕事に縛り付けているからである。政務の一端を担う評議員を物ともしない魔王だが、この魔王補佐だけには頭が上がらなかった。子供の頃から面倒をみられているせいかもしれない。母が女王を勤めていた時には次席補佐だったのに、今は主席補佐の座で厳しく魔王をしごくので、魔王はたまったものではなかった(しごかれるのは、日頃仕事をしないせいである…)。
「私がせずとも、お前がやればよかろう…」
「僭越ながら、そのような処置が出来る事柄に関しては、わたくしの方で対処させて頂いております」
何と言っても勝てないので、とりあえずは仕事を片付けるしか無いのである…。魔王自らの魔力を持って封印を施したり、外交に必要な手紙に魔王の魔力を込めたサインをしなければいけなかったり…。いちいち内容を確かめながらやっているのでは、作業の進みようが無かった。
「……ここに置いてあるものは、全てお前が了承したものと判断して良いな?」
「正確に言うならば、評議員会議の結果で御座います。最も、わたくしが良いと判断したものを会議に提出しておりますが」
「そうか…まあ良い。それに考えてみれば、このことによってこの世界がどうなろうと、私の知ったことではない」
言うなり、魔王は盛大に魔法を使い始めた。つまり、全ての仕事を魔法で自動化したのである。何本もの羽ペンが宙で紙にサインを入れ、危険取り扱いを受けた品は魔法の光の中で一転して封印を施されると、図書館行きの箱へと収まる。歴代の魔王の魔力によって綴られる国史の原本には、きらきらと魔力が降り注いで、魔王補佐が用意した原稿を写していく。
「……全く、貴方という方は…そもそも、10年で政務に飽きて行方をくらまし、それ以降13年もの間おろそかにしていた政務を、このような形で終わらせようとしてしまうとは………」
呆れた口調の首席補佐官だが、止めようとはしていないようだった。そもそも、この世界の民というのが、統制の取れた国家や、全ての民を平等に守る治安の良い世界を望んでいないのだ。そして、いい加減にやってきた13年間の方が、民の魔王への支持は高かった。
弱肉強食、魔力が全て…こんな国でなければ、この魔王はやっていけなかったに違いない…思いつつも、首席補佐官は何も言わなかった。何しろ、そのような世界の方が都合良いと思っているのは、補佐官も同じなのだから。
……そもそも、13年も政務をほったらかしにしても成り立ってしまうというのが、何か間違っている気がするが。
そんなわけで、魔王は1ヶ月ほどそれなりに普通に取り組んでいた政務を、魔法であっさり数時間で片付けてしまった。
「はじめからこのようにすべきであったな」
「左様で御座いますか」
もはや何も反論しない補佐官は、それだけ言うと魔王を解放してくれた。
「つまり、地の果てへ行くには、絶大な魔力が必要だから、俺では無理だってことなんだな?」
魔王が図書館にやってきた時、まだ青年とニアは話をしていた。青年はまだ移動せず、最初に取った本を手にしたまま、難しい顔をしてニアと対峙している。対するニアも、珍しく明るい表情を引っ込めて、真面目な顔をしていた。
「……何か問題でもあるのか」
話しに夢中になっていた二人だが、その声に最初に反応したのはニアだった。
「あら、王。もうお仕事はよろしーんですか?」
「適当に終わらせてきた。何を話していた」
「何でもいいだろ、あんたには関係ねぇな」
青年はきっぱりと魔王を突っぱねた。ニアも否定も肯定もせずに、いつもの妙に明るい笑顔に戻っている。魔王は納得いかなさそう…というよりは、酷く詰まらなさそうで退屈そうな顔で、片眉をつり上げた。
「……まあ、良い。ニア、もうすぐ13年分の図書館への納入品が届くぞ」
「えぇっ、最近こないなーと思ったら、そんなに溜めてたんですかっ! だーかーらお仕事さぼるなって言ってるのに〜〜〜!」
「…うるさい…」
心底嫌そうな顔の魔王が、顔を背けるのと同時に、図書館にその納入品が届いた。……先ほど、魔王が魔法によって大量処理した、封印の品や贈与品だ。
「見つからぬうちに行くぞ」
「は? 行くってどこに?」
またもや勝手なことを言って我が道を行く魔王に、どやどやと届き始めた品を珍しそうに見ていた青年は顔をしかめる。
「何処でも良い…そこへ行くぞ」
「ちょっと待てよ、てめぇ…」
反論が完成しない間に、魔王はさっさと鍵を提示して、青年がちょうど持っていた本の部屋へと、青年を強制的に引き連れ、移動してしまった。
「……ここは…」
「なんだよ、あんたが勝手に来たんだろ」
室内を見渡し、脇の棚に納めてある物を確認している魔王に、青年は不平たらたらな口調で切り返す。
「『失われた力の錬金』の一室か」
「!」
青年は、咄嗟に表情を隠すのに失敗した。何か失態を犯してしまったとき、それに気づいたものの表情だった。
「…何を失った、よもや記憶ではあるまいな?」
魔王も、それによって青年が何かを失ったものを探していることに気づいた。
「さぁな…もし記憶を無くしちまったんだとしても…無くしたことすら忘れてんのかもしれないぜ」
わざと挑発するような言葉を選び、青年がにやりと好戦的な笑みを浮かべる。
「ふん、だがこの部屋には、そなたの望むものはあるまい」
「……なんだって?」
「ここにあるのは、失われた技術…かつては存在した魔法の力についての研究、実験器具、魔法陣の論理式…そういったものだ。そなたが求めているのは、そのようなものでは無い気がする故な」
ゆっくりと歩き出した魔王が、一つの本棚の前で足を止めると、迷わず一冊の本を引き出した。手に広げてページを捲り、目的の箇所を青年へと向けてみせる。黄ばんだ紙に、色あせたインクで書かれている。
「……魔力転移の器具…?」
青年が示されたページのタイトルを読み上げるが、魔王の意図が掴めない……最も、これまでも魔王の意図が掴めたことなど殆ど無いのだが。
「誰かの魔力を、別の誰かに移すために使われた器具とされる」
「それが、どうかしたのか」
「通常、魔力というものは、弱いものから強いものへと流れ、弱いものは強いものへ惹きつけられる性質を持つ。だが…この器具は、その流れに逆らい、性質をねじ曲げるために使用されたのだ」
「何のために?」
「私が知るわけなかろう」
「あっそ……んで、それが何に関係してんだよ」
だんだんと苛立ち始めた青年の声が、続きを促す。…が、今回の魔王は前回と違って少々余裕があった。
「ふっ…そなたには、魔力が無いのだろう?」
「な…っ…」
「先ほど、図書館へ来たときに聞こえたのでな。そなたから感じる魔力…それは、そなたのものでは無いのだろう」
青年は魔王を睨み付けたまま、黙って居る。魔王は、先ほどの本を本棚へ戻し、ゆっくりと青年に向き直った。
「そもそも、真実の名を失ったのに、何故そなたはここに存在する? 魔力は真実の名に宿るものだ…魔力を失ってなお、何故存在出来るのだろうな?……答えは簡単だ、何かがそなたをつなぎ止めているのだろう。そなたから感じる魔力は、おそらくそのつなぎ止めている何か……違うか」
「……」
「最初は、真実の名以外の…仮初めの一時的な名で、魔力を、存在を、維持しているのだと思ったのだが、どうやら違うようだな。ニアが隠そうとしていたのは、このことか。真実の名を失ってなお存在すること自体、奇異なことだ。失った名の代償を埋めることは容易では無い。崩壊が始まる前に魔力を補填するか、崩壊そのものを防ぐか…方法は多くない」
青年は黙ったまま、ずっと魔王を睨み付けている。無意識のうちに握った剣の柄を、今にも引き抜こうとするかのような体勢になっている。だが、それでも動けないようだった。
「急くな」
魔王がひた、と青年を見据え…剣にかかっていた手に、掌を重ねる。
「そなたに、魔力を与えようというのだ……悪い話しではあるまい? そなたは魔力を得る…私は、多すぎる魔力を解放出来る。互いに損はせぬはずだが」
「……。…都合が良すぎて、信じらんねぇな」
「…何だと?」
あっという間に、以前の雰囲気に戻ってしまっていた。魔王からは魔力が吹き上がり、青年は一歩引いて剣の柄を握ると、臨戦態勢へと切り替わる。先ほどまでの大人しかった、静かな空気の反動のように、図書館内の静謐さがぴりぴりと破られていくようだ。
「コラーーーっっ!!!」
「……げっ」
「又か」
そこへ、当然のようにニアが飛び込んできた。青年はしまったどうしよう、という表情でびくっと身体を硬直させ、魔王は嫌そうな顔で脳天気な声の主をねめつけた。
「魔王ー、ちゃんと言わないと分からないですよ〜。もー、話しを先送りにしようとするとこ、先代と全っ然変わらないんだから。遺伝ってやつ? やーねぇ、もっとマシなトコ受け継いで貰いたいもんだわ」
「…黙れ」
「いーえ、黙りません。貴方はこの子の秘密を知っちゃったわ。この子にも、貴方のことを知る権利がある…でしょ? じゃないと正当な取引にならないじゃない」
この子、と示された青年は思いっきり複雑な表情をしたが、初代魔王の時代から居るニアにしてみれば、この子扱いされても仕方がないのかも知れない。
魔王は、自分が言わない限りニアが喋り続けてそのまま全てを明かしてしまうだろう、と諦めることにしたらしい…盛大な溜息をついて魔力をようよう収めた。
「…私は、生き物から魔力を吸い取ってしまうのだ」
「へー、そりゃー便利な体質で」
「何が便利なものか」
「何でだよ、この世は魔力が全てじゃねーか」
実際、魔力が無いせいで苦しんでいる青年にしてみれば、むしろ羨ましい話だ。
「……愛しい者の命を奪ってしまってもか? 制御出来ぬのだ。あまりにも、強い魔力が内に溜まりすぎてしまったせいで…魔力は強いところへ集まる性質がある…魔力の性質をねじ曲げることが叶わぬのだ。そして制御できぬ魔力は、更なる魔力を惹きつけ…肥大化してゆく。時がたつにつれ、私の自由に出来ることは減ってゆく。このままでは……」
聞かなくても、どうなるか分かってしまった。
周り全ての魔力を取り込んでしまったら、魔王はどうなるだろうか。どうやっても制御できない魔力は、魔王の意志に関係なく、世界中の魔力を寄せ集め始めるだろう。周り全てを失い、独りになってしまった魔王は、そうして出来上がった大きすぎる魔力により、身を滅ぼされる。……そして、器を失った魔力は暴走し、いずれは世界が魔力の塊のみになって崩壊を来す。
ようやく、青年は先ほど見せられた本の意味が分かった。
「あなたは、地の果てに行くために魔力が欲しい…魔王は、自分の中の魔力を適正に保つために、魔力を分けたい。ちょうど良いんじゃない?」
ニアの言葉により、決まった。
「よし、では地の果てへ行くぞ」
魔王はさっそく断言すると、用意をしてくると言い置いて姿をくらましてしまった。
「……早ぇ…」
半ば呆れ、半ば感心して青年が呟いた。
「魔王はね…ずっと、魔力をどうにかしたいと思って、調べてきてたのよ。足りなかったのは、魔力を受け止める器…貴方よ。貴方には魔力がない…魔王は貴方から魔力を吸い取れない。失われた技術を使って、魔力を移すことも、可能かも知れないわね…」
魔王は、滅多に近づこうとしない…近づいたら魔王補佐に捕まることが分かってるからだが…自室へと赴いていた。あれこれと必要なものを用意(ただし、自分の手は使わず魔法が全てを行っているので、魔王が用意したとは言えないかも知れない)し、支度を整える。あっという間に作業を終え、部屋を出ていこうとするところで、首席補佐官に捕まった。
「何処へ行かれるのです、王」
「ちょっとそこまで、な」
言うなり、魔王はかき消えた。
「あっ…魔王、ちょっとって何処で御座いますか?!」
慌てた補佐官の声が響くが、もはや魔王は地の果てへ向けて一歩を踏み出してしまっていた。
そう、ちょっと…地の果てへ行くために。
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後書きもどき
思ったより短い回数で区切りをつけられました。ちょっとそこまで地の果てへ、というタイトルは、散々悩んで付けたものです(そりゃー、会社の行き帰りに必死に考えましたとも。何しろ、1万Hit記念だったので、余裕が無かったのですよ)。で、結構気に入っているタイトルです。
地の果てへ行くのに、「ちょっとそこまで」かぃ、というこの魔王でなければ言えなさそうな科白がいいなーと思ったのです。ちなみに、主人公である青年と魔王、両方とも名前が出てこないままでした…ま、そのうち出しますので。
こんかいの話は、全体から見れば序章のようなものですが、これからも続けていきますので、宜しくお願い致します(例)。
…………ぁ。言うまでもなく一番のお気に入りはニアです(笑)。
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……地の果て……
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