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光の庭 …名前呼ぶ声…
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光の庭
0:記憶の場所 1:木陰と雲の中 2:光の庭
3:木の枝の上 4:名前呼ぶ声 5:秘密の場所
6:雨の庭 7:輝く香 8:籠の中の音 9:光追う手
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「さき、と…」
続きを促す声は、いつもの名前を特別な色で飾っていた。
押し倒された身体から、今だけは素直に伸ばされる腕が、咲音を求めて持ち上がった。咲音はその指を絡めるようにして受け止める。手はそのまま布団へ縫いつけるようにして、押しつけた。抵抗しても無駄なのだと言い聞かせるように。今にも逃げていきそうな恋人が、ここではない何処かへ行ってしまうのが、怖ろしいから、つなぎ止めるために。
「光流、光流…」
お願いだから、ここにいて…側にいて欲しい。腕の中に居る瞬間を、過去のものにしたくない。今は熱を分かち合ってる相手が、気が付いたら居なくなってしまいそうで…捕らえずには居られない…。無意識のうちに名前を呼ぶ唇が、熱をはらんだ肌の上をたどる。触れるたびに応えてくれる身体…それを自分のものだという安心感へ変えようと、身体を抱きしめた。
更にと求めるように、光流が口付けてくる。薄い唇を啄んでキスを返し、首へ絡められた腕に引き寄せられるまま、角度を変えて深く舌で口内を犯す。咲音を求めた光流の腕が動き、首筋に指を触れさせた。ぞくりと咲音の肌が粟立って、一瞬キスが止まった。光流にばれてしまっている、数少ない性感帯だ。反応した肌を伝わって、腰がうずく。耳元から鎖骨へ滑っていく指先に、煽られる。
「っん…みつ、る……」
「何だよ」
「…もう、やめて」
限界、とばかりに光流の指に咲音の制止の手が伸びた。光流に主導権を握られるのが、怖いのだ。このときくらいは、光流は自分のものなのだと、思いたいのに…。光流から施される愛撫を感じるたびに、捕らえられているのは自分なのだと言うことを、思い知らされる気がするのだ。己を閉じこめたまま、勝手気ままに遊ぶ鳥が、今だけ帰ってきている…だったら、自分の元に居るときくらい、鳥を捕らえておきたかった。
「それとも…私をその気にさせたいの?」
捕まえた手を押さえ込み肌を撫でる指を止めると、息を付く。高められた情欲を返すために、顔を覗き込んで聞いた。……逃げられないように、するために。ここで、違う、と喚かせれば、咲音の勝ちだ。後はもう、壊れる寸前まで、抱けばいい。そうすれば、己のものになっている一瞬を、楽しめる。
「…お互いに楽しみたいだけだろ?」
「!」
予想に反した言葉だった。滅多に餌をくれることがないのに、こんな時に欲しいものをくれるなんて。耳元で囁かれた短い科白が、先ほどの指よりも多くの欲情をかき立てる。なのに、切羽詰まった独占欲は、一瞬かき消されてしまった。その代わり浮かび上がってきたのは……
「…光流」
ただ、愛し合いたいという、深い愛情。
お互いを楽しむような前戯は、それで終わった。求める声のトーンが変わった。咲音の身体が光流を組み敷き、足を大きく開かせる。触れられていなかった入り口に、指先が触れた。
「ぅあ…っ、あ…!」
光流の背が弓なりに反った。
「……っ…さき、と…咲音――!」
必死で呼ぶ声。それは、どんな喘ぎ声よりも、快感を表している気がする。もっと、自分だけの嬌声を聞きたくて…咲音は光流の口を指で犯していた。ともすれば閉じて堪えようとしてしまう恋人が、我慢できないようにと。
「あぁっ…だ、めだ――咲音っ、さ、き…とぉ…」
必死でかぶりを振って、指の支配から逃れようとするが、咲音がそうそう簡単に逃すはずもない。舌の柔らかい感触を楽しんでは、溢れてこようとする唾液を、キスですくい取る。そうしながら、もっと高い音を鳴らせようと…肩へ担いでいる足を開かせ、奥を突く。
「…ひ、ぁ……あ…っ」
知り尽くした内壁を、感じる場所を狙って擦り上る。ダイレクトな快感を与えられ、素直に反応する身体が、びくびくと波打つ。腕の中でその動きを受け止め感じると、咲音は光流の身体を抱きしめ直した。
「――ん、んっ…さき、と……も、駄目…だっ」
「光流」
「ぁ、あ…あぅ…っく……い、く…っ!」
高まった快感の解放を求めるように、咲音にしがみついてくる光流の腕に、力が籠もった。咲音の指が光流の性器に絡まった直後、その指を白い液体が濡らした。それからもう何度か突き上げた後、咲音も果てる。
「っは…は……はぁっ…んっぅ、咲音…」
普段だったら絶対に聞けないような、鼻にかかった声。甘く呼ばれる名前。
「なぁに、光流」
答えが無いことは、分かっている。それでも答えるのは、その次に無言の愛の言葉が、あるような気がするからだろう。愛をささやけない光流は、そのかわりに、咲音の身体へ顔を寄せるようにする。一時だけの、甘えるような仕草。
しばらく、お互いの高まった体温と、情事後のけだるい身体を楽しむ。
「う…」
咲音が不意に動いた。抜くのかと勘違いしている所へ、先ほどの余韻もさめるような快感で光流を襲った。ゆっくりと腰を前後させて、再び内部を刺激し始める。
「っま、て…咲音! 待て…っぅあぁ――!」
「待たないよ…お互いに楽しむんでしょぅ? 光流」
「楽し、んだ…だろぉっ…んん…!」
だんだんと、快楽に浸食されていく反論。それを完全に封じ込めるために、幾度も口付けた。
「…咲音――!!」
もちろん、怒りが籠もった声など、無視だ。せっかくの光流からの誘いを、断る手などない。……もっとも、光流は先ほどの言葉が誘い文句だなんて、思っては居ないようだが。
我が儘に光流を巻き込んだ咲音だったが、それでも翌朝、昨日と同じ時間に目覚めた。普段ではあり得ないくらい、早い時間からのSEXだったということに、咲音はその時気づいた。隣で疲れた身体を休めている恋人を見下ろす。昨日は温泉に入る時間などなく、部屋に備え付けてあるシャワーで済ませた。洗い清めたはずの身体なのに、何故か情事後の艶を含んでいる気がする。寝息にあわせて背中のラインが上下していて、それが艶めかしい。続けての性交に疲れているだろう身体を、そっと撫でた。綺麗に筋肉がついている。その流れをたどってから、立つ。
咲音は、ミルクティを入れてから、光流を起こした。
「おはよう、ダーリン」
「……誰が」
毎回かわされるやりとりを、短く省略して、光流はカップを受け取った。咲音も、隣に座ると一緒に飲む。ゆっくりとしみこんでいく、暖かさ。ミルクティが底を尽きるのに十数分かかった。その間、無言で静かな朝の空気を楽しむ。
「行くか」
飲み終わった光流が立ち上がって、大きく伸びをした。
昨日と同じく、午前中の内に、光の庭へ向かう。宿のオバサンにおにぎりも用意して貰って、午後までゆっくりするつもりだった。今日も、よく晴れている。
「あ」
「どうしたの」
「カメラ忘れた」
「……充電したままだね、そういえば。取ってくるよ、先に行ってて」
光流は、ひらりと手を一度振って答えに代えると、歩き出した。それを確認した咲音も宿へ戻るために、来た道を歩き出す。宿に戻り、部屋でカメラを鞄に入れる。ついでに、売店でペットボトルのお茶を買ってから外へ出た。一人で歩く味気なさを感じながら、教えて貰った道をたどって、光流が待って居るであろう場所に向かう。
だが、そこには先客が居たらしい。
「ミツル!」
名前呼ぶ声。
知らない声だ。咲音から見えるのは、ぼんやりと庭の真ん中に座り込んでいる光流だけ。声の主は、男とも女ともつかないトーンをしていて…そして、何処にいるのか分からない。何となく出ていくのが躊躇われて、咲音は木の幹の影へと、身体を寄せた。
「!」
ぼんやりとしていた光流は、呼ばれた方向を見た。…木の枝の上に、一人の女の人がいる。どこかで会ったようで居て…知らない相手。
「誰だ、てめぇ…」
光流は立ち上がると、身体を一歩、引いた。
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光の庭
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