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光の庭 …雨の庭…
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光の庭
0:記憶の場所 1:木陰と雲の中 2:光の庭
3:木の枝の上 4:名前呼ぶ声 5:秘密の場所
6:雨の庭 7:輝く香 8:籠の中の音 9:光追う手
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朝起きても、雨はやんでいなかった。二人は、ちょっと疲れていたせいもあって、出かけずにだらだらと過ごしていた。しかし、元気な人もいる。……カオリだ。昼食にあと一時間というくらいの時、傘をさして光流を尋ねてきたのだ。
「暇だから、遊びに来ちゃったー」
内線電話などという便利な物が付いていない、小さな旅館だ。オバサンが呼びに来てくれた。お客さんが来てる、と。だいたい予想はしていたが、やはりカオリだったのだ。せっかく再会した昔の遊び相手を、無下には出来ないのだろう。光流はそういう性格だ。咲音のことを気がかりそうにしていたが、結局は部屋を出ていった。
光流が出ていった後、咲音は堪らずに部屋を出た。食堂の一角に二人が話している姿があった。光流は煙草を吸っている。そういえば、旅行にきてからは吸っていなかった。
「ミツルは、どれくらいぶりにココ来たの?」
「俺? 俺はお前と遊んで以来だぜ」
「あたし、ほぼ毎年ここに来てるのよ。あそこには、もう何回も毎回毎回行ってる」
やはり、カオリは光流に会うために、毎年ここへ来ていたのだ。再会は、偶然ではなかった。光流にとっては偶然かも知れなくても…カオリの努力によるところなのだろう。咲音はすぐに部屋へもどった。見ていられなかったのだ。楽しそうに笑う光流を。二人の間に流れる、共通の雰囲気や認識を、見てしまった。それを認めたくなくて、逃げたのだ。
撮った写真のデータを、持参したノートパソコンで整理していたが、全然はかどらない。光流とカオリの姿が目の裏に焼き付いているようだ。先ほどの会話が頭の中でリフレインされて、その中で親密さが上がっていくようで、打ち消したいのに、うち消せない。気になって仕方がないのに、何故逃げてしまったのだろうか。不安になって、咲音はまた部屋を出た。パソコンの電源をつけっぱなしだなんていうことは、気づきもしなかった。
二人は、相変わらず会話を弾ませていた。耳の端々に入ってくる会話は、笑い声を含んでいる。食堂の入り口に向かって座っているカオリが、こちらに気づいた。しまった、と思ったときには遅かった。にっこりと笑った…鮮やかな笑み。咲音にはあんな笑い方は無理そうだ。誰もが好かずにはいられないような笑顔。
光流も…? あんな笑みに惹かれるのだろうか…? 咲音が不安をふくらませたとき、カオリがぐっと身体を乗り出して光流の耳へ口を寄せた。
「!」
カオリの目が、一瞬だけこちらを見る。
嫌だ。
気が付いたら、その場を離れて宿を出ていた。駆けだしてしばらくして…ようやく自分が雨に濡れていることに気が付いた。あぁそうだ。雨が降っていたのだった。何かに急かされるようにして走っていた足が、止まる。
咲音が知っている場所など、一つしかなかった。雨ですべりやすい地面を踏んで、歩く。落ちてくる雨は、冷たいくらいだった。服がそれを吸い込んで重みを増していく。何度か濡れた木の根っこに躓きそうになりながら、咲音は雨の庭へたどり着いた。
広く空を覆っている木々が、雨を受け止めて下に居るものを護っているようだった。木の葉の庇護に包まれながら、咲音は庭の真ん中で立ち止まった。何故自分がここに来てしまったのか、分からなかった。逃げても仕方がないことを分かっていたのに、どうして逃げてしまったのだろう。逃げてしまったら、本当に光流を失ってしまうかも知れないのに。あの場にとどまっていれば、それを止めることも出来たかも知れないのに。
風が吹いた。ざぁっと木が鳴って、それまでとどまっていた水が、咲音に降りかかる。髪が落ちてきて、額にかかった。強い雨に、かけていた眼鏡がずれる。濡れた服が肌に張り付く。冷たく感じる布地に、咲音は光流が居ないということを感じた。
「咲音っ!」
どれくらいの時間がたったのか、正直よく覚えていない。名前を呼ばれたとき、ようやく世界がよみがえった気がした。
「馬鹿野郎、何で…」
何で? 何で…。
あぁ、そうだ。確かめたかったのだ。光流に必要とされているのかどうか。迎えに来てくれるかどうか。……側に居ても、いいのかどうか。
知りたかったのだ。
駆け寄ってきた光流の腕に、抱きしめられる。気づかない内に、身体が冷えていた。雨は冷たいのに、光流が触れている部分から、身体の感覚が徐々に戻ってきた。
「…光流」
のろのろと顔を持ち上げると、そこに光流の顔があった。水滴のついた眼鏡が邪魔だ。レンズにかかる前髪がうっとおしい。なのに、腕が持ち上がらない。それを見透かすように、落ちてきている前髪を光流の指がすくいあげた。額に触れたのは、熱があるかどうか確かめるためだろう。夏とはいえ、山は雨が降れば冷え込むから。
「光流」
「ここに居るよ」
「……戻ってこなかったらどうしようかと、思った」
ようやく、腕が動いた。きしむのを押して持ち上げると、光流の身体を抱きしめ返した。
「すごく…楽しそうに笑ってた。どこかへ、行ってしまう気がした…取られてしまいそうで……」
ぼそぼそと雨音に負けるくらいの声。光流が何か言おうと口を開きかけては、言いよどむようにしている。言葉を聞きたい気がするのに、聞くのが怖かった。光流はここに居る。だが、それでもなお、不安だ。聞きたい…聞きたくない…結局、何かを言おうとしていたのを、遮ってしまった。
「ずっと…待ってたんだよ。部屋で……時間が、長かった」
「遅くなって悪かったよ…ごめん」
「何を話してたの…あの人、ずっと光流を見つめてた」
「お前が勘ぐってるようなことは、何もねぇよ。昔遊んだ頃の話しをしてただけだって」
では何故、言いにくそうにするのだろうか。はっきりと、答えが欲しい。普段から気持ちを言葉にしてくれない。だからこそ、こういうときくらい…知りたい。声に出して言って欲しい。光流の指が咲音の顎にかかる。促されるまま、顔を上げた。目の前に光流の顔がある。雨に濡れている眼鏡は外させれて、畳んで胸ポケットへ入れられた。
「…本当に?」
「ホントに」
光流の目を覗き込む。近いから眼鏡がなくてもちゃんと見える。まっすぐに見返される、光流の目。それがぼやけたと思ったら、眦に柔らかく唇が触れていった。……暖かい。ちゃんと顔を上げたら、甘やかすようなキスをくれる恋人。こんな時でないと、光流からキスをしてくれるなんていうことは、無いに違いない。薄い唇を舌先で舐め取ると、雨に濡れた唇が、しっとりとしていた。もう一度突くと、開かれた唇の合間から、すぐそこにある歯を舐めた。応えるようにして、光流の舌が咲音に絡まる。
深くなるキス…時々、雨が混じる。根本から絡めようと伸ばされる舌を、受け止めて軽く吸い付いて、舌裏を舐められる。次第に、はい上がってくる快感。身体が熱くなってくる。
「っ…咲音…もう…」
「もっと、だよ…」
逃げようとするのを、捕らえて…顔の角度を変えると、覆い被さるようにしてまた口付ける。言葉では嫌がっても、キスをすれば、また味わうようにして息を交換する。
「駄目、だって」
キスの合間に、顔を離された。光流が咲音から一歩離れる。何故、離れるのだろう。何故、逃げようとするのだろう。折角、二人きりなのに。雨のせいで濡れているのか、キスのせいで濡れているのか…どちらなのかよく分からない光流の唇に、触れる。
「何で…逃げるの? 離れていってしまうの?」
「違うだろ、そうじゃない」
「じゃぁ、何で」
光流の足がもう一歩、後ろに下がった。ほら、やはり、逃げようとしている。離れていこうとしている。行き先は…どこ?
「逃げないで…光流」
「逃げてねぇだろ、ちゃんとココにいる。お前の側に居んだろーが」
ならば何故、咲音が一歩近づくごとに、一歩下がるのだろう。どうして、ここは外だからと理由を付けようとするのだろう。帰ってからにしようなんて誤魔化そうとするのだろう。今…触れたいのに。
「私が、嫌なの…?」
「そうじゃない。部屋帰って、シャワー浴びて暖まってからにしようぜ。お前、このままじゃ風邪引くぜ」
「構わないよ。光流が暖めてくれればいい」
「ここ、外なんだぞ。分かってんのか? 部屋帰ってからのが、ゆっくり出来んだろ」
そんなことは、関係ない。欲しいのは、後でじゃない。今なのだ。でも、もう逃げられない。光流の後ろには、太い木があるのみだ。神社の御神木だといっていた、一番大きくて太い木。立派な幹がそびえ立ち、枝々を支えるための根が、地面をうねるようにして這っている。その一つが、光流の足のすぐ後ろにあった。右肩を押せば、倒れるだろう。一瞬で見てとったとき、既に咲音の身体は動いていた。崩れる光流の身体に覆い被さるようにして、太い木の根へ身体を押しつける。
「っぅ」
息が詰まったらしい声が聞こえるが、それに構う余裕はなかった。どうすれば、光流が離れていかないで済むのか…他に、方法を知らない。シャツの裾から手を入れて、濡れた布を肌から引きはがした。胸元を探るようにして、冷たい肌をたどる。指先に感じる引っかかりに、爪をかけた。
「……っ!」
光流が耐えるように息をのむのが、分かる。ひねり潰すと、痛みを堪えるように、押し倒した身体が竦んだ。このまま…壊してしまいたい。もう片方の手でズボンのベルトを外すと、性器に触れた。光流の身体が反応する。
「ねぇ…光流。どうして、感じたりするの? 逃げたがってたのに…何で身体は、私の手に従うの」
根元から指を絡めてしごき上げると、小さいうめき声が漏れる。それも雨音にかき消された。雨のせいで湿っている茂みに指を潜らせて遊び、反応して形を成した先端に指先を添えて鈴口をなぞる。敏感な入り口に爪を立てると、びくりと光流の肩が跳ねた。
「うぁ…っ!」
その声に混じって、聞こえた。地面を踏む足音…枝を踏んだ微かな。突然動きを止めた咲音に気づいたのだろう、光流がようやく体勢を立て直す。光流をかばうように、咲音は立った。その先には…無粋な来客者が居る。
「お邪魔だったかしら。心配だから、来てみたんだけど…問題なかったみたいね」
傘をさしたカオリが、こんな時でも、日差しで煌めくような笑顔を見せた。
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光の庭
0:記憶の場所 1:木陰と雲の中 2:光の庭
3:木の枝の上 4:名前呼ぶ声 5:秘密の場所
6:雨の庭 7:輝く香 8:籠の中の音 9:光追う手
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