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光の庭 …籠の中の音…
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光の庭
0:記憶の場所 1:木陰と雲の中 2:光の庭
3:木の枝の上 4:名前呼ぶ声 5:秘密の場所
6:雨の庭 7:輝く香 8:籠の中の音 9:光追う手
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「何故、そんなにも光流に拘るの? 咲音さんはすごく不自由に見えるわ」
光流が見える位置…けれど、光流の睡眠を邪魔しないくらいの距離を取って、咲音は香輝に向き合っていた。香輝は半ば光流に背を向けるようにして、真っ直ぐに咲音を見ている。高く結われているポニーテールが肩に流れているのを、手持ちぶさたそうに指で遊んでいる。
「拘ってはいけない?」
「……いけなくは、ないけど…」
じゃぁ話は終わりだとうち切ろうとする咲音に、香輝は慌てて取りすがった。あたしは振られたのだから、理由を知る権利くらい欲しいと。理由を知ってどうするのか、香輝の気持ちがさっぱりと分からない、配慮に欠けた咲音は、嫌そうに頭を振った。だが、迷ってから口を開く。
「光流は、私が見つけた、初めて執着できる存在だから。いくら不自由だとしても、離れる気はない」
「いくら拘ったって、光流っていう存在は捕まえることが出来ないでしょ。光流って、ふわふわとした風船みたいなんだもの。捕まえたと思ったのに、すぐどっかにいっちゃうじゃない」
そんなことは、分かっていた。そんな所こそ、好きになった。咲音が辛いときや、光流の気が向いたときは、ふらりと帰ってくる風船。いくらつなぎ止めておこうとしても、ふらりと外へでかけていってしまう。それでも、待っていられるのは…光流が帰ってくる場所が、自分の所だと …思えるようになったからだ。
「だからこそ、だよ」
静かな、決意を含んだ声。決して強くない。だが、意志の力がこもっていた。その言い方を否定するように、香輝がなんどもかむりをふる。言葉を探すように、何度も口を開きかけて。
「……。光流じゃなくても、執着出来ればいいんじゃないの? もしかしたら、あたしにだって、同じように執着出来るかも知れない。その可能性を探ってみるだけでも、駄目なの? 光流に貴方を縛っておく権利はないわ。まるで、籠の中で飼い殺されてるみたいじゃない…その籠からちょっと出て、あたしと会ってみるのも悪くないでしょ?」
必死だった。この夏、数日間で好きになってしまった相手を、どうやったらつなぎ止められるのか、分からないから。出来うる限りの思いを込めて、言葉を強くする。……ただそれも、咲音の静かにするように、というジェスチャーに静まった。肩を落とす香輝は、いっそう細く見えて、とても男には見えない。
「貴方は分かってない…私は、光流の所有物なんだ。籠の入り口は何時でも開いているのに、私はずっと籠の中に居る。光流という存在そのものに捕らわれてるから。光流が縛ってるんじゃない…私を縛っているのは、私自身」
そう、咲音を縛っているのは、咲音の想いだった。光流を好きだという自分の気持ちに、咲音は捕らわれている。それだけなのだ。ごくごく、穏やかな声で答えると、香輝を通り越して、木の根本で寝ている光流を見る。
その時、香輝は分かってしまった。何故、こんなにもこの相手に惹かれるのか。
一人の人を、強く想う心。
それ故に、弱くなった部分。
他を圧倒する、限りない独占欲。
それは、その存在への依存。
香輝は、光流を好きで仕方がない咲音が、眩しかったのだ。そこに惹かれた。一つの物に夢中になっている姿は、時折情けなく、滑稽ですらあるけれども…とても美しい。恋する女性が綺麗になるように、光流の側にいる時の咲音の雰囲気は、とても凛としている。
寝ている光流の側を離れて、香輝に向き合っている咲音は、昨日とは別人だった。先ほど声を掛けようと近づいていったときとも、別人だった。
無関心。
それに尽きる。好きの反対は嫌いではなく、無関心だということを、香輝は知った。好きも嫌いも、共に相手への興味があってこそだ。今の咲音に、僕のことが嫌いかと聞けば、きっとこう答えるに違いない。…好きでも嫌いでもない、どうでもよい、と。嫌いという言葉よりも、人を傷つける言葉だ。
「最後に、もう一つ聞いてもいい? 他の物へそんなにも興味を示さない貴方が、何故、光流に出会えたの? 光流の、どこに惹かれたの?」
「一つじゃないな…まぁいいか。出会った経緯は長くなるから省くけれども…光流の何処に惹かれたかというと…」
一泊置いて、咲音はまた寝ている光流の方を見た。
「全てだよ」
香輝に向かって言うのではなく、寝ている光流へ向けた、告白。そう、と香輝は寂しそうに頷いて、踵を返した。邪魔したわね、と去ろうとする背中を、咲音は何を思ったか呼び止めた。
「今日の夜、ここをたって、東京へ帰る。もう、ここで会うことは無いと思う」
それは、咲音なりの思いやりだった。光流に会うことで、身につけた…小さな思慮だ。自分を好きだと言ってくれた男に対する、咲音の精一杯。香輝は、ふっと笑った。太陽がさっとさしてきたような笑顔。何故、先ほどまであんなにも辛そうだったのに、こんな風に笑うことが出来るのだろうか。咲音の疑問は、口に出されることなく…香輝は今度こそ、その場を去った。
「帰ったか」
「起きてたの、光流」
「さっきな」
立ち上がった光流が、伸びをしながら咲音の方へ歩いてくる。
「あの人、直前まですごく哀しそうな顔をしていたのに、最後は前みたいに笑ってた。……何でだろうね」
光流を抱き寄せるために腕を伸ばしながら、咲音が言う。質問ともつかない、曖昧なニュアンス。香輝に聞けなかった疑問。
「あの笑顔は、あいつの最大の長所であり、かつ最大の武器だからな」
答えにならないことを、光流が呟いた。咲音の腕の中へ納ってくる存在を、受け止める。本当は、その疑問が「興味をもつ」ということであったのだが、光流は咲音に教え無かった。だから、僅かにひっかかった「好奇心」を咲音はすぐに忘れてしまった。何しろ、腕の中には大好きな恋人が居るのだから。他を見ている余裕など、もう無い。
「夕方、またここに来ようぜ」
光流の願いを、咲音が拒むはずがなかった。
赤い色が、庭を染める。差し込んでくる光は、木々を通して柔らかなピンク色となって、二人を照らす。静かな朝の涼やかな空気とも違う。眩しいまでの昼の光溢れる庭とも違う。鮮やかなまでに浮かび上がっているのに…これから夜を迎える寂しさを内包している。ゆっくりと気温が低下してきて、今日一日で暑くなった空気が、次第に冷やされていく。
一日が、終わろうとしている。
それを、こんなにも思わせる場所は、他にそう無いだろう。鳥のさえずりはもう聞こえず、夜を彩る虫の鳴き声が、低い場所からその存在を主張している。二人は、あの枝の上に座って、時間を過ごしていた。時折交わされる会話。言葉の合間を埋める、沈黙がゆっくりと心地よく、流れていく。お互いの姿よりも、共に過ごしている庭の移り変わる姿を、眺めていた。長い夏の日が落ち、急速に闇の影が庭を浸食していく。
旅行も、終わろうとしていた。
完全に太陽が山の向こう側に隠れてしまってから、光流は夕闇の中咲音を見た。気配に気づいて、咲音も光流を見る。交わるようで居て、交わらない視線。絡むことを急に暗くなった庭が邪魔していた。
「帰るか」
「そうだね」
眩しすぎる光を和らげるカーテンとなっていた木の葉が、闇を濃くする暗幕として、姿を変えていた。光流は暗い足下を難することなく降りていった。気を付けて降りろよ、という光流の声を受けて、咲音も降りる。間もなくして、咲音も光流の隣に並んだ。見えない足下を、しっかり確かめながら、時間を掛けて宿まで戻る。夜に出歩くのは、最初の晩に夕食を食べに行ってから二回目だった。舗装された道へ出ると、少しだけホッとした。自分たちが居るべき場所を、確認した気になる。庭は美しい。だが、ずっとその場にとどまるべき場所では、ないように思う。時折、帰る場所…そんな表現が、ぴったりくる。自分たちが居るべきなのは、人の手によって舗装された、この道の上なのだ。そして、この道のずっと先に続く、街なのだ。
人混みに紛れて暮らしていく生活に、慣れすぎている。人が作った街に、居すぎてしまった。今いる場所の魅力よりも、身体に染みついた汚れた空気が、懐かしい。
夕食を食べていかないのか、という宿のオバサンの声に、笑って時間がないから、と時計を示した。売店で、オジサンが打った蕎麦を、買えるだけ買った。買えるだけ、というのは、賞味期限を考えて食べきれるだけ、ということだ。居心地も良かったし、温泉も気持ちが良かった。蕎麦も美味しいし、オバサンも親切だった…不自由なく過ごせたし、二人は概ね満足だった。お礼を言って、宿を後にする。
「何時か又……来れたらいいな」
「うん、そうだね…」
一度だけ、宿を振り返ってから車に乗った。
真夜中、交代で運転したとはいえ、高速を飛ばして帰ってきたので疲れていた。高速を降りたところで、車の通りが少ない場所に、一度車を止めた。運転をしていた光流が大きく伸びをして、体勢を崩し座席に沈んだ。渋滞を避けてこの時間にしたのだが、やはり疲れている。
「交代しようか」
「ん」
光流が運転席を降りて、咲音側の助手席へ来る。扉を開けて待つと、腕を伸ばして光流の腰を抱いた。制止するように、光流が名前を呼んできたが、無視する。肌に当たるのは、都会の夜の風。湿度が高く肌に絡みついてくるような熱気。今日も熱帯夜なのだろうか。しょうがねぇな、と光流の手が咲音の頭に乗せられる。車が一台、通り抜けていった。
「っん…! 馬鹿咲音っ、どこ触ってんだてめぇはっ」
「光流の股間」
「しれっと答えてんじゃねぇよ、やめろって」
逃げようとするが、しっかりと腰を抱きかかえて離さない。100メートルほど前にもう一台車が止まっている。咲音はその車の中で何が行われているか、分かっていた。つまり…ここはそういう場所なのだと知ってしまった。それならば、ちょっかいを出さない手はないだろう。ジーンズの布地の上から、光流のペニスをたどるようにして指を動かす。息をのむ声。光流が車の入り口に手をついて、何かを耐えているようにしている。
素直に、快感に流されてしまえばいいのに…そう思って、ジップを下ろす。下着の布の間も割って、直接触れた…もう、熱くなっている。それを取り出すとさらに抗議の声が降ってきた。
「あんまり暴れると…通りかかる人に、ばれちゃうよ。平然としてれば、何をしてるか何て、分かりっこないのに」
「そ、そゆ問題じゃ…あぁっ……」
咲音が顔をかがめて、光流の性器を口に含んだのだ。カリをなぞって滲み始めた先端を開くように、舌先を動かす。敏感な粘膜に直接的な刺激を受けて、光流の腰が目の前でひくひくと揺れている。
「な、んで…こんなとこで……っう、さき、と――!」
指も使って袋を揉みしだいて筋を擦ってやると、切羽詰まった声が聞こえる。何故こんな所…そんなのは決まっていた。帰ったら、もう旅行が終わってしまうからだ。独り占めできる内に…もっと光流を味わっておきたかった。喉奥に感じる先走りの味を飲み込む。深く銜えこまれたペニスが脈打つのが分かる。固くなっていくのを確かめるようにしごいていた手を、そっと後ろに回す。固く閉じられた蕾。
「!!…やめろっ、咲音…それは、駄目だっ」
「何が、駄目なの?」
「足…立って、られなくなるから…」
「立っていられなくなったら、周りから見えちゃうかもね」
指を口に含むと唾液を絡ませて、下の口を割った。びくっと揺れる身体を、しっかりと腰を抱きしめることによって保たせる。立っているからだろう、変に力が入っている肛門が咲音の指を拒んでいる。やはり、この体勢では辛いか。だが、この車のなかでやるにしても、少々狭い。……そういえば。咲音はダッシュボードから、一つのチューブを取り出した。
「何でてめぇは、んなとこに、そんなもんを入れてるんだよ…」
潤滑剤だと気づいた光流が、もう咲音が止まらないことを知って、げっと嫌そうな声を出す。そんなに嫌がらなくてもいいと思うのだが…。咲音は不服に思いながらも、封の切っていない入れ物を開けた。
「この間買って…そのままになってただけだよ」
本当だった。ただ…ちょっとだけ催淫剤が入ってることは、内緒にしておこう。指先にそれを取ると、すべりを借りて一本くらいは中へ納まった。光流のうめき声が聞こえる。たっぷりと中に塗りつけると、咲音の悪戯はあっさりと終わった。捕らえていた腰を解放してやる。
「やっぱり今ココでやるのはちょっと辛いから…帰ってからにしようか」
「なら、手ぇ出すんじゃねぇよ…ったく」
「好きな人を目の前にして、そんな無理を言わないで欲しいな」
軽口をたたけるのは、今の内だろう。咲音はチューブを仕舞って立つと、光流に助手席を譲った。ズボンを整えていた光流が、かわりにそこへ座る。咲音は運転席へ回ると運転を再開した。光流の部屋まで、あと数十分だ。それまでに、隣の光流がどうなるのか…楽しみだ。部屋に帰ってからも、離れられないようにすればいい。そうすれば、安心して帰ることが出来る。そうすれば…旅行の延長を、楽しむことが出来る。
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光の庭
0:記憶の場所 1:木陰と雲の中 2:光の庭
3:木の枝の上 4:名前呼ぶ声 5:秘密の場所
6:雨の庭 7:輝く香 8:籠の中の音 9:光追う手
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