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光の音 …ひかり…
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光の音
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朝は嫌いだ。

差し込む光が、全てを流し去っていくようで、暗闇の中に築き上げた夢が、覚めていく…。

「おはよう、ミツル」

「ん…」

上から降ってくるのは、大嫌いな声。いつも俺を起こしにくる、苛立たしい音。逆らっても仕方がないのは分かっているので、仕方がなく体を起こす。いつものように窓のカーテンは開け放たれ、眩しいまでの光が差し込んできている。時計の針は、まだ7時。5時に寝たばかりの身には辛い時間だ。

「起きた?」

嬉しそうに覗き込んでくる顔はニコニコとしている。

「うるせぇ、さっさと会社行け」

眠たい目をどうにかこじ開けると、手で追い払う真似をする。しかし、こんなことでは相手の笑顔は崩れない。

「そんな冷たいこと言わないで…おはようのちゅぅと、行ってらっしゃいのちゅぅ…欲しいな?」

俺は無言で相手の腹へ拳を入れた。むろん本気ではなく、ぼすっと当たる程度のものだが。どうやら俺からキスをもらうのはあきらめたらしく、俺の頬へ勝手に唇が触れてくる。…嫌ではないので、放置することにしてるのだが。

「じゃあ、行ってくるね、ダーリン…愛してるよ」

誰がダーリンだ、誰が。その思いをそのまま行動に移し、俺はもう一発、奴の腹へ拳を当てた。

「もう、つれないなぁ。。。」

最後に俺の唇を強引に奪って満足したのか、足取りも軽く部屋を出て行った。玄関で扉が開く音がし、そして閉まる音がする。さぁ、もう一度寝よう……。俺はベッドへ倒れこんだ。



起きたのは昼前だった。目をこすりながらベッドから抜け出してリビングへ行くと、テーブルの上には昼ごはんが用意されている。朝俺をたたき起こしやがった奴が、丁寧にも作ってくれたものだ。これが美味しいもんだから、けちのつけようがないあたりが、なんだかむかつく。

その昼食を食べた俺は、着替えて外へ出かけた。仕事に出る時間まで、まだまだ余裕がある。買いたいものがあるから、ちょっと街まで出よう…。そんなわけで俺は、夏の暑い日差しの中、新宿まで来ていた。家から新宿までは、電車で一本、タクシーなら1000円程度だ。仕事場である歌舞伎町にはなるべく近づきたくないので、俺は西口へと出た。

外へ出たとたん、太陽のまぶしさに目を細め、シャツに引っ掛けていた貰い物のサングラスをかけた。……まぁ、サングラスに限らず、今身につけてるモンなんて、ほとんど貰いもんだけどな。行き着いた先は、いわゆる大型電気店だった。そばを通るだけで、がんがんと強い冷房が流れ出ているのが分かる。エネルギーの無駄遣いなんじゃないか?

そこへ吸い込まれる多くの人と一緒に、俺は店へと入った。目的は扇風機で、というのもあいつがエアコンは嫌いだと、いつも俺がつけるエアコンを勝手に止めてくれるからだ(去年は一緒に暮らしていなかったから、問題なかったのだが)。仕方なく、俺は扇風機売り場へと向かう。途中DVDオーディオを見に別の階へよったのだが、この間欲しがっていたら、誰かがくれるようなことを言っていた気がするので、やめることにした。

扇風機はエアコンに押されているせいなのか、種類はさほど多くなかった。結局俺は大きいものと小さめのものを2台買い、家へ送ってくれるように手配すると店を後にした。次に寄ったのはマリアージュ・フレールが入っている小田急で、目的は当然のことながら紅茶だ。

ダージリンのセカンドフラッシュが出ている。そういえばそんな時期だ。今年は出来がすばらしいわけではないようだったが、gあたり100円という安値に誘われて、50g購入した。ついでにアールグレイが切れていたのを思い出し、それも。……ちなみに、アールグレイを飲むのは俺ではない。フレーバードティは苦手なのでめったに手をつけないのだが、それを当たり前に買うようになってしまったのは、やはりあいつの影響なのだろーか…なんだかむかつくな。

紅茶党がふたりそろっているせいか、めったに珈琲は飲まないのだが、豆を焙煎しているところを通りかかったら、無性に飲みたくなった。トラジャを200gほど手に入れると、紅茶と珈琲を持って小田急の店をあちこち歩いた。エスカレータで下へ降りている最中、思わぬところで嫌な奴に見つかってしまった。…思わぬところ、というのは表現が変か。何しろ、彼女は小田急に店を出しているらしい。知っていたら来なかったのに…。

「みっちゃんじゃなーい」

ふざけたことに俺のことを「みっちゃん」などと呼ぶ彼女は、若手のデザイナーで、新宿小田急に出展している店へ顔を出しに来たのだそうだ。つい仕事用の顔になって、駆け寄ってきて腕に絡んでくる彼女を、やさしく受け止めてこんにちは、と挨拶をする。

「こんなトコで会えるなんて、吃驚ね。今度またお店へ行くわ…今はちょっと忙しいから無理だけど」

「楽しみにしてるよ」

「それにしても、ところでどうしたの、こんなトコで」

「買いたい物があったから来たんだよ…でも、今思えばユリカに会うためだったのかもな」

「やぁだ、相変わらずうまいんだから〜。あっ、もう行かなきゃ、またねぇ」

俺が吐く白々しい科白を信じる、数多い馬鹿の一人は、丁寧に投げキッスまでくれると、時計を気にして去っていった。一気に疲れを感じつつ、喫煙所へ行くと、煙草を取り出して火を付けた。壁に寄りかかりながらふーっと最初の一口を吐き出す。手には結局、紅茶と珈琲の他に紙袋一つ分の荷物が増えていた。

中身はパジャマで、秋物のが早くも出ていて、それが気に入ってしまって2着色違いで勝ったのだ。淡いクリーム色のパジャマと、渋い茶のパジャマだ。両方ともステッチがかけてあり、その色合いが気に入ったのだ。クリーム色には渋茶のステッチ、渋茶にはクリーム色のステッチ。両方俺が着るのではなく、片方は毎朝不機嫌な時間に起こしてくれる奴のためのものだ。……不本意だが。お揃いのパジャマなんぞを買って帰った日には、大喜びされそうで悔しい。なんとか言い訳を考えておく必要がありそうだな。。。

煙草を吸い終わって時間を見たら、ちょうど16時を回ったところだった。俺は一度家へ戻り、荷物を適当に置いてソファへ寝ころんだ。するとどこからか猫が寄ってきて、俺の足下に丸くなる。この猫は俺が数年前から飼っている猫で、もう5,6歳になるはずだった。手術済みのオナベな三毛猫で、俺の不規則な生活も気にせず元気に生きている。そいつを足で突いて遊んでから、俺は夕寝に入った。



起きたのは…正確に言えば起こされたのは、一時間後くらいだった。

「んで、こんな早く帰って来てんだお前…」

「恋人に会いたくて、に決まってるでしょ」

仕事は、と聞けば、

「ちょうどキリが良かったから終わりにして来ちゃったよ」

スーパーフレックスタイム制を取り入れてる会社だからと言って、こんな早くに引けて来ちゃっていいもんなのか? 分からん…。寝ぼけた頭で目を擦っていると、その擦った目に唇が触れてくる。柔らかくて、気持ちがいい…。……再び寝そうになったところで、いくつも触れてきていたぬくもりが遠のいた。

「全く、こんな冷房きつく効かせちゃって…風邪引いても知らないよ」

「よけーなお世話だ、ほっとけ」

「まぁ、もし風邪引いたらつきっきりで熱い看護をしてあげるからね」

……それだけはゴメンだ。風邪が悪化するに違いない。その後、俺に女物の香水の匂いがするとかでごねるのを、どうにかこうにか宥め、紅茶で落ち着かせることに成功した後、俺は仕事へ出かけた。しかし…んの女、あんなくっさい香水つけた状態で俺に触りやがって…。あいつは、普段おっとりとして、何事も雄大に構えている風があるが、実は全然心が狭くて独占欲が強い。怒らせると、とんでもないことになるんだ。。。

スーツとは名ばかりの戦闘服に身を包み、俺は店へ顔を出した。俺の成績は、たいてい中の上、上位に食い込むことは少ないが、平均以下になったこともない。……という、まぁ平々凡々というか、それなりというか一般的というか…おかげで敵は少ない位置にいる。上位の人はそれなりにおだててやるし、新入りや下位の奴はヘルプにつけてやって、点数を稼がせてやる。そんなトコだ。給料は大抵200万オーバー、数百万ってとこ。そんなに多い方ではないけれども、決して少ないわけじゃないだろう。もっとも、一緒に暮らしている奴には、この本当の給料を言っていないけどな…。下手したら「養って貰っている」とかいう変な認識を持たれかねん。

「あーー! やっときたぁ!…みっちゃぁん!!」

ホールへ出たとたん。女の子に捕まった。常連の一人で、俺が居れば必ず俺を指名してくれる。お得意さまの一人だ。

「いらっしゃい、アユちゃん」

「もー、待ってたんだよぉ」

腕を引かれてソファへ座らせられる。それまで相手をしていた、何時も上位をキープしている仲間が、そろそろ予約客が来るというので抜けていく。それへありがとうございました、と軽く頭を下げて挨拶にする。後でしっかりとお礼を言ってフォローを入れて置いた方がいいかもしれないな…。

「ごめんごめん、アユちゃんに会えるかも知れないと思って、オシャレに気合い入っちゃったんだ」

「もー、うまいんだからー」

「嘘じゃないよ、だってアユちゃんいつもセンスいいからさ…俺も負けてられないじゃん? せめて、君に釣り合えるようになりたいだろぅ…?」

肩を引き寄せて、最後の方は内緒話のようにひそひそと耳の中へ吹き入れてやる。とたん、僅かに顔を赤くして大人しくなってしまうのだから、女って不思議だ。ストレートな言葉よりも、それを匂わせる言葉の方がいい。ストレートな科白は、使い場所が難しい。ここぞというところで使えば、絶対的な効果を得るが、それ以外ならば冗談にもなりかねないからだ。

「あーんもう、嬉しいこと言ってくれちゃうんだからぁ…みっちゃん、今日は飲もう! 飲もうっ!」

「折角だから、祝杯と行こうか? こうして、君が腕の中に居る幸せに乾杯…ど?」

「うんっ、 ニューボトルお願い〜」

ちょうど通りかかった、比較的仲の良い後輩を捕まえて、手が空いてるかを聞くとヘルプに付くように頼み、ボトルを持ってくるように頼む。こうして、俺の一日はそれなりな成績で終わっていく。開店同時に着ていたアユちゃんを、日付が変わるまでたっぷりと店に金を落とさせた後、帰るところを捕まえて、久しぶりにデートに誘った。デートと言っても、ホテルコースをたどらないことは少ないのだが。そして途中まで送って…そのまま直帰だ。

家に帰ったら、電気がついたままだった。時間は午前5時。いつもの時間だ(店に最後まで居る場合は、もう少し早い)。何で電気ついてんだ? 不思議に思いつつ、寝室を覗くと…そこも電気がついたまま、ワイシャツから着替えないままのあいつが、俺が買ってきたパジャマを抱きしめて寝ていた。……馬鹿か、こいつは。

「ったく、んな幸せな顔しやがって…」

指先で頬に触れてから、俺はスーツを脱ぎネクタイを外し、ワイシャツだけを引っかけて浴室へ向かった。浴槽にお湯をだぶだぶと入れながら、溜まるまでの間に煙草を吸いにベランダへ出る。……あいつは、煙草の匂いが嫌いなんだ。本当なら、ベランダでしか吸えないなんて、我慢出来る性分じゃない。だけど俺は、あいつが煙草味のキスは嫌だと言ったときから、家ではベランダでしか吸っていないし、それも、なるべくあいつが居ないときや寝ているときに吸うようにしていた。…自分でも呆れる。何だかんだいって、こんなにもあいつに心を砕いている自分が、嫌じゃない。

煙草を2本吸って、浴室へ行くとお湯がいい感じに溜まっているので、止めた。ふと、鏡を見ると自分の顔が映っている。

「あーぁ、ンな幸せそうな締まりの無い顔しちゃって…」

鏡の中の自分に向かって、諦めにも似た、惚気を呟くと、俺は浴室へと入った。

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光の音
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