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光の音 …ひかりのおと…
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光の音
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いつの間にか寝ていたらしく、光流が起きたのは仕事に行く直前だった。慌てて身支度を整えて、新宿へ向かった。光流が出ていった数時間後、咲音が帰ってくる。

夕食の支度をする前に、洗濯機を回し始める。昨日購入されたパジャマ二着も、泡の中へ吸い込まれる。洗濯機が働いている間に、食事を済ませると、洗濯物を干しにかかる。ベランダへ出てパジャマを干していると、猫がにゃーと鳴いてベランダの窓の所へ出てきた。咲音が密かに猫に敵意を持っているのも知らず、足に擦り寄ってくる。

「…いいなぁ、光流の側にずっと居られるなんて」

時々足先で猫を突いて遊びながら、干し終わると畳んだ洗濯物を寝室へと運ぶ。ベッドには昼間まで寝ていただろう、光流の匂いが残っている気がして、洗濯物は脇へ置いて枕を抱きしめる。今朝の光流を思い出す。何故だかは知らないが(教えてもらえないままだったが)、とても怒っていたことしか思い出せない。目を閉じる…咲音の頭に浮かぶのは、光流の健康的に焼けた小麦色に近い肌、伸びた手足の綺麗なライン、欲情を誘うような鎖骨に、思わず塞ぎたくなる唇 …そして、今朝の真剣に怒っていた顔。

「何で、怒ったんだろう…」

久しぶりに、見境を無くして怒りまくる光流を見た気がした。でも、出会った頃は確かに関西弁をそのまま喋っていた記憶がある。何しろ、一番最初に抱いたとき、あの関西弁で散々文句を言われたのだ。いつの間にか…今のように器用に標準語(というか東京弁?)を使いこなしていた。

……咲音は、光流が標準語を使うようになった理由を分かっていない。一番最初のSEXの時、光流が「あかん、あかんって、待てや!…ぎゃー! なにしとんねん、そんなんこすいで(以下略)」とにかく、言葉も身体も勢いよく抵抗するものだから、咲音がさすがに閉口して「何言ってるのかよく分からないけど、もう少し色っぽく出来ないの」とぼやいたのだ。この科白を光流は「関西弁でよく分からないから、色っぽくない」と解釈したのだ。…ということで、咲音を好きだとはっきり認識した時にその科白を思いだした光流は、極力標準語を使うようになった。

「…もっと、触りたかったな。折角…抱きしめられたのに」

光流の肌を思い出しながら、思わずうとうととし始める。明日は土曜日で会社も休みだ。早めに起きれば、光流が帰ってくるところを捕まえられるかも知れない…そうしたら………。

ぴーんぽーーーんぱぁんぽぉぉ〜〜〜〜ん。。。

眠りそうになったところで、突然チャイムが鳴った。マンションはオートロックになっているので、まず玄関に居る相手に受話器ごしに用件を聞く必要がある。ベッドから起きあがると、髪を手櫛で直しながら受話器に向かう。

「はい」

マンションの共用玄関の呼出口に付いているカメラには、明らかに宅配便のおにーさんが大きい荷物を持って立っていた。

「佐○急○です、ビッ○カメ○からご注文の品をお届けに上がりました」

注文? しかも、○ッグ○メラ? 咲音にはそんなものを頼んだ記憶はない。…となると、光流だろう。しかし、何を注文したのやら…。咲音は首を捻りつつ、それを確認することにした。光流からは特に伝言を預かっていない。もしかしたら間違いということもあり得る。

「すいません、中身なんですか」

「えーっと…あ、扇風機ですね。2台あります」

結局、咲音は荷物を届けて貰い、リビングに陣取っている扇風機二台(の箱)を前に、再び考えを巡らせていた。隣にはさも一緒に考えていますというポーズを取って座っている猫も居る。

「扇風機…何で? 私が冷房を嫌うから…とか、考えても。。。」

考えても…良いのだろうか。一人なのを良いことに、考えが口から漏れている。それから数分ほど黙ったまま箱を睨み付け、色々悩んでいた咲音だったが、結局扇風機の箱はリビングの隅に寄せられ、放置することにした。光流のものならば、勝手に触ってはいけないだろう。それよりも…洗濯物を片付けている途中なのだった。それから、寝る準備をして寝なければ。

扇風機は、翌朝起きたら2台とも組み立てられていた。1台は寝室へ、もう1台はキッチン及びリビング用だろう。組み立てた当人であろう光流は、週一番の稼ぎ時である金曜日だったこともあり、ぐったりと隣で寝ていた。その次の日には扇風機を使った形跡があった。そして、使った本人であろう光流は…やはり土曜日の疲れなのか、ちょっとやそっとで起きる気配がないくらい、ぐっすりと眠っていた。

「まったく、無防備に寝ちゃって…」

その寝顔をじぃっと眺めて、ぽつりと呟く。平日と同じリズムで起きてしまってから、休日の起き抜けに何時も飲むミルクティを入れるために、パジャマのままベッドを出る。久しぶりに、ニルギリでミルクティを入れよう。濃いめに出して、牛乳だけじゃなくて生クリームもくわえて。何時も入れている、アッサムに蜂蜜もとろりと甘くていいけれども、生クリームの深みだけで甘くないさっぱりとしたミルクティもたまにはいい。

ミルクティを入れ終わり、リビングのソファで大きなマグカップを持って座る。咲音が両手でミルクティを包んでぼーっとしていたら、珍しく早い時間に光流が起きてきた。眠そうに目を擦っている。

「……はよ…」

掠れた声で小さくぼそっとしか挨拶しない。いつものことだ。

「どうしたの、こんなに早く。昨日は土曜で疲れたでしょ? もうちょっと眠ったら?」

「ん…。……」

頷くが、光流はそこに立ったまま、じーっと咲音の手の中にあるミルクティを眺めている。

「………。…欲しい?」

観念したように咲音が聞く。答えの変わりに光流はソファに歩み寄り、咲音の隣を占領していた猫を床へおろしてそこへ座った。そっと手渡されるカップを持って、しばらくぼーっとしてから、一口すする。しばらくしてから、もう一口。そして、ふーっと息を吐き出す。満足の溜息だ。

「…がと」

ありがとう、と本人は言っているつもりだが、咲音にはこう聞こえる。ミルクティのカップを受け取り、咲音が飲む。…数口飲んだら、また光流にカップは渡り…そうやって二人でカップを空にした。もっとも、最後の方はソファで光流がうとうとし始めていたので、カップの底の方はほとんど咲音が飲んだ。

「ほら、ベッド行ってもう少し寝よう、光流」

「ん…」

コップを片付けに立とうとする咲音のパジャマのはじっこを、無意識のうちに光流が掴む。

「……どこ、いくんだ」

「コップ片付けてくるだけ…光流、ちゃんとベッドで寝なきゃ駄目だよ」

「…お前は」

光流が甘えている。…ということは、寝ぼけているのだろう。こういうときしか甘やかせないので、咲音は光流を思いっきり甘やかすことにしている。コップはリビングのテーブルへ置きっぱなしにしてしまおう。後で洗うのがちょっと大変そうだけれども…咲音にしてみれば、光流を抱きしめることの方が、今は大切なのだ。

「一緒に寝るよ」

「ん…」

ようやく納得したように光流が頷き、そのまま再びソファで寝ようと頭を咲音の肩へもたせかける。

「こら…ちゃんとベッドで寝なきゃ」

「ん…」

「じゃないと、一緒に寝ないよ」

「うー…」

「ほら、行こう?」

「ん…」

宥めて騙して(?)甘やかして、咲音は光流をベッドまで連れて行くと、そのまま昼まで一緒に寝てしまった。何しろ、腕の中に恋人を抱いて眠る機会なんて、そうそう無いのだ。

――あぁ、こうしていると、この間喧嘩していたことが、嘘のような気がしてくる…。



後1晩だけ、が2晩になり…3晩を過ごした後気が付いたら、光流は咲音に抱かれて眠っていた。今まで抱かれるばっかりで、相手に包み込まれて抱かれるなんてことは、殆どなかった。パジャマ越しに胸に額を寄せれば暖かく、呼吸に合わせてゆっくりと上下する僅かな動きが、眠りを誘う。静かな中に、心地よく心臓の脈拍の音を頬に感じて…そのことが、凄く幸せで…つまりは、離れがたかったのだ。

今更身体だけ求めてました、と言われようとも…こうやってたまに、この腕の中でぬくぬくと感じる暖かさを、失いたくないと、思ってしまったのだ。

「…光流、そろそろ起きて、お昼ご飯食べよう」

咲音は少し前に起きていて、それでもしっかりと光流を抱きしめたまま、正午過ぎたことを光流に伝える、だいたいいつも光流が起きているくらいの時間だ。咲音が作った、ハムとチーズのホットサンドを食べ終わる頃、咲音がちらりと光流を見ながら切り出した。

「光流。…この前、何で怒ってたの?……そろそろ教えてくれても、良いんじゃない?」

「……。…あぁ…」

ハッと咲音を見返し、そして目を伏せながら視線を逸らしてしまう。何か言いたくないことがあるときの光流の癖だ。

「私が怒らせたんだよね? 教えてくれないと、分からないままだよ」

「ホントに、何で俺が怒ったのか、分からねぇのかよ?」

「分かってたら、わざわざ聞かないでしょ」

そうか、と光流は納得いって居なさそうな顔で、手に持ったままになっていた、ホットサンドの最後の一口を口の中に放り込んだ。それをゆっくりと租借して、飲み込み…口を開く。

「咲音…じゃぁ、俺が何でお前に抱かれてんのか、分かってるか?」

咲音が、一番聞きたくて、でも一番聞けなかった…答えが怖くて聞けなかった、質問だった。それをまさか、自分から聞くのではなく相手から問われることになるとは、思っても居なかったが。

「…何で?」

「ホンっっトに分からねぇ?」

頷く咲音に、光流は諦めにも似た溜息をはーっと長々吐き出した。そしておもむろにテーブルから立ち上がると、ホットサンドが乗っていた皿を手にキッチンへと行ってしまった。皿をキッチンへ片付けてしまうと、光流はそのまま寝室へ行ってしまおうとする。

「ちょ、光流…続きは?」

「知るか。ったく…やってられねぇから、もっかい寝る。あ、今日は休みだから起こすなよ」

「光流!」

慌てて皿を片付け、咲音も光流を追う。光流はベッドの上で猫を腕に抱いて、部屋の奥を向いてしまっていた。部屋にはいると、その後ろ姿が見える。手が動いていて、猫を撫でているのが分かる。

「……なぁ、咲音」

「なぁに」

「もし、お前が無理矢理じゃなく誰かに抱かれるとしたら、何で抱かれる?」

「そりゃ、抱かれてもいいって思う相手だからじゃないの」

「抱かれてもいい、っていうのはどういう条件でそう思うんだよ」

「絶対に勝てない相手…とか?」

「……。…てめぇ、征服欲強すぎだ」

折角途中までうまくいっていた誘導は、そこで途切れてしまった。光流としては、抱かれてもいい相手というのは、好きな相手だ、というような答えを言わせたかったのだが。光流が黙ってしまい、沈黙が流れる。咲音は突っ立っていたのを、ベッドの端へ腰掛けた。

じんわりとした動きで腕を持ち上げると、パジャマを着たままの光流の背中へ手を伸ばす。指先が触れ、軽く布地を掴むようにして引く。

それが合図のように、猫を撫でる手を止め、しかし咲音の方を見ないまま、光流が短く名前を呼んだ。

「咲音」

「ん」

「俺がお前より強かったら、お前は俺に抱かれてもいいってことだよな?」

「……」

「お前より強い相手が現れたら、そいつにお前は抱かれるってコトだよな?」

「それは…」

「そういうことだろ」

「そんなことない」

もう少しだった。

「じゃあ、どういうことだよ」

「好きでもない相手に抱かれるわけ、ないでしょぅ」

……言わせた。

咲音も、気が付いた。言わされて、気が付いた。光流が何故、自分に抱かれるのかを。何故あのとき、光流が怒ったのかも。…どうして、怒らせてしまったのかも。

光流の誤解を解くのも、咲音の本当の思いを伝えるのも、後だ。それよりも、言わなければ行けない言葉がある。

「…愛してるよ、光流」

「ンなこた、知ってるよ…」

「……うん」

光流はまだ振り向かない。でも、髪の影から僅かに見える耳は赤い。しきりに猫を撫でて、誤魔化そうとしている。その身体を、咲音はゆっくりと後ろから抱きしめた。

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後書きもどき。。。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。この話は、本当はもっと短い予定でした。……が、書き始めてみたら、全然短編では納まらなくなっていました。。。「ひかりのおと」は1ページで完結するはずが、前後編になっちゃいましたし…とほほー(最初、この話が短編に置いてあったのを見た人も居ると思いますが、短編の予定だったんですよ!)。

そして、エロを入れる隙間がありませんでした…最初は全て18禁の予定が、「ひかり」と「おと」はエロシーンが殆ど入らず、最後だからエロを入れよう! と思っていた「ひかりのおと」でも、結局入れられませんでした。。。

なので、また後で、「ひかりのおと」直後のエロシーン「光と音の色(仮タイトル)」を書きたいと思っています。そして、こちらが完結していないのにもかかわらず、二人の番外編「夜の茶会にパウンドケーキ」も書き上がっていますので、そのうち載せたいと思っています。よろしければ、そちらもどーぞなのです。


ところで、オイラはどーやら、ホストという職業が好きなようです(笑)。……つか、タイトルの意味、気が付いてくれた人、居ます?(汗)


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光の音
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