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ポリフォニー …甲斐:シンフォニア(2)…
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甲斐の章
序 インベンション カノン(前・中・後) フーガ(前・後)
シンフォニア(0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
シンフォニア(11 12 13 14 15)
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何故と理由を問われることは無かった。ただ、経験の有無を聞かれただけで、俺の望んだ行為は始められた。
まさか、自分から望んで男に抱かれることになるとは、思わなかった。これまでの人生で、同姓から告白されたことが無かったというと、嘘になるし、身体の関係を迫られたこともあった。だが、俺はいつも付き合う相手に女性を選んでいた。それが、俺にとって一番自然だったからだ。
弟の振りをして、弟と同じ扱いを受けようと決めたとき、俺は二つのことを知りたかった。一つは、瑞夢に告げたとおり、「穏やかな瑞夢」と「冷酷な瑞夢」のどちらが本当であるかを、知りたかった。もう一つは…同じ行為へ及ぶとき、瑞夢が俺をどう扱うかを、知りたかった。弟と同じ扱いが駄目ならば…俺は、どう扱ってもらえるのだろうかと。
その答えが今、与えられる。
傷の手当てをされていたせいで、俺はもとから一糸まとわぬ姿だった。まず、目を閉じるように指示するかのような、目元へのキスから始まった。その後、緩やかに唇を合わせて…。
俺は正直、どのように進んで、どのような経過をたどったのかは、あまり覚えていない。ただ、男同士のSEXをどうするか、という俺の知識は間違っていなかったのを、再確認したのは、覚えている。
楽だからと、普段ならば恥ずかしくてとても出来ないような、姿勢を取らされた。最も、抗った記憶はないから、そのころには理性が飛んでしまっていたのだろう。長時間掛けて尻の穴を伸ばされ、また長い時間をかけて、瑞夢のものを挿入された。正直、そんなものが、尻の穴に入る事が可能とは思っていなかったのだが…。
身体全体に、重力がかかるかのような圧迫感。そして、入り口が引きつれる傷み。そこの部分の皮膚が精一杯引きつり、強い異物感を伴って、徐々に入れられ…最後には、全てが納まったらしかった。
初めから快感を得るのは難しい、と言われていたが、どうやら瑞夢は初経験の相手をすることに、慣れているようだった。噂に聞いていたほどは痛くなかったし、最後の方には瑞夢の手管により、多少なりの快感を覚えていた。
瑞夢が腰を引く際に起こる、内蔵を引きずられるような、排便のときのような感覚も、行為の間に僅かながら慣れた。奥へと性器が進められるときの、入り口が内側に引っ張られそうになる感じも、終わる頃にはあまり違和感を覚えなくなっていた。
「……やめよう」
ぼんやりと記憶をたどっていたら、もう一本煙草へ火を付けそうになっていた。吸わない方が健康に良いことくらいは知っている。吸わずに済むならば、吸わない方が良い。銜えていた煙草をパッケージへと戻し、ライターと一緒に仕舞った。
しかし、行為の最後、体力の限界が来て、俺はまた意識が薄らいでいったはずなのだが…瑞夢がここへ連れてきてくれたのだろうか。覚えていない。
社員以外は容易に自社ビルへは入れなから、おそらく、瑞夢は秘書かなにかに俺のことを託したのだろう。可能性としては奈良橋の可能性が、高い。何時もあいつに店に予約を入れさせてるからな…。
……駄目だ。まだ、身体が疲れている。眠らなくては。
一眠りして…どれくらい寝ていたのか、俺は分からないが、次に目覚めたのは、部屋へ誰かが入ってきたからだった。
「…起こしてしまいましたか」
予想通りの秘書、奈良橋だった。ゆっくりと起きあがる。大分身体が楽になっている。
「カスタムのスタッフという方から、先ほど社長宛に、個人的に電話が入りました。疲れていたようだったが、もう大丈夫だろうか、とのことです」
……カスタム?
おそらく瑞夢が電話を入れてくれたようなのだが…カスタム?
…………もしかして、あの店の名前だろうか。全く確認していなかったし、覚えるつもりもサラサラなかったため、今まで知らなかったが。
「心配を掛けたな。済まなかった。それと…こっちの方が重要なんだが、フォローをありがとう、お疲れさま」
「ですから、お休みになった方が良いとお勧めしたでしょう、社長。私なんかへの労いをして下さるより、ちゃんとお休みして頂く事の方が重要です」
「だから、済まなかったと謝っているんだろう」
「お体の調子はいかがですか」
「大分良い…俺はどれくらい休んでいた?」
「店へ行くために空けた予定の時刻から、今までで35時間たっております。つまり、一日と半分ですね」
店へ行ったのが20時ほどだったから、今はもう朝なのか。
「…休んでいた間の予定がどうなったかと、今日の予定を報告してくれ」
秘書が流れるように報告をするのを聞きながら、頭を仕事へと切り換えていく。今日は少し身体が辛いだろうが、どうにかなるだろう。休んでいた分の予定を、取り戻さなくてはいけなかった。
休んだ分の皺寄せを全て片付け終わる時期に、弟から連絡が入った。応答するつもりは無かったし、相手にするつもりもなかった。だが、弟からの連絡があったという事実が、俺の精神状態へ少なからず影響したようだった。
前は、こんなにも弟を気にすることなど、無かったのに…間に瑞夢という存在を挟んでから、お互いの関係が変わりつつあるようだった。
実を言うと、弟を瑞夢の店へ出入り禁止にしようかと、思ったこともあった。だが、弟を出入り禁止にしたところで、顔で判断をすれば、俺も一緒に出入り禁止にされかねない。俺たち二人を良く知らないガードマンやボーイが、俺たちの区別が付くとは思えなかった。瑞夢でさえ間違えるのだ。会員カードで判断すれば、また弟が俺のカードを偽造して終わるだろう。
具体的且つ効果的な、即対処へ移せる方法が思いつかなかったため、弟を放置することに、俺は決めたのだ。
弟が関わろうとしてくると、どうしても瑞夢のことを思い出す。弟が犯罪に及ばないように、見張るための監視役からの報告によれば、弟は頻繁に瑞夢の店へ出入りしては、いわゆるSMと呼ばれるプレイにいそしんでいるようだった。身体は傷だらけだと聞くが…やれやれ…。
忘れたかった。
そうすることが出来れば、楽になれることを、俺は知っている。
だが結局、仕事と気持ちが同時が一段落した時、俺は再び店を訪れた。弟の真似をして瑞夢を騙してから…自ら望んで瑞夢に抱かれてから、数日や数週間、1,2ヶ月、と短く括れない時間がたっていた。大きなプロジェクトが一つ終わってしまうくらいの時間。
正直、もう店へ行くのはやめようと思っていたのだが、思考が理性に従ってくれなかった。もう、これ以上瑞夢に関わるのは止めた方がいい、人は「手に入れる」ようなものでは無い…二度と会わずに忘れることが、今ならばまだ出来る。理性的で客観的な論理が頭を支配しているときならば、そう考えられた。
ただ、ふと気を抜いたときや、いつの間にか思考回路が微睡んでいるとき、直情的で主観的な感覚が俺の中にあった。過去に、何度か経験のある状態だった。最初は、人並みに初恋をしたとき。強く記憶に残っているものとして他に、唯一無二だと思っていた親友と喧嘩したとき、などだ。
経験によれば、長く思い悩んでいても、仕方がないことが多い。何となく、自分の中で分かっているのだ。これは、時間が解決してくれない問題だと。難十年もかければ時間がどうにかしてくれるだろうが、そんなに待っていられない。
さっさと、感情に従ってしまうに限る。問題が起こったならば、その時考えればいい。普段だったら…特に仕事をしている上では、絶対にしないような考えで、俺はようやく諦めて瑞夢の予約を入れた。
一年以上放置したせいで、会員権は切れてしまっていたのを、奈良橋に頼んで、契約し直した。瑞夢の予約の空き状況を確認させ、俺と都合が合う日に予約を取らせたのだ。
忘れられない。
忘れられなかった。
穏やかな表情、柔らかい声。
……全てが欲しくなる、この感情をも、俺は忘れることが出来なかった。
そして、久しぶりに店を訪れたとき迎えてくれた、瑞夢の顔も、忘れることが出来ないだろう。
「いらっしゃいませ、貴志さま…お久しぶりです。もう、来て下さらないかと、思っていました…」
店の入り口で出迎えてくれた瑞夢は、何時も通り穏やかな表情に見えた。何時もと違って見えたのは、顔は笑っているのに泣きそうな目。そして決定的に違ったのは、どこか余裕のない口調。更に…珍しいことに、瑞夢はフロントで俺を抱きしめた。今まで、誰かが他に居るようなパブリックスペースで、こんなことをしたことは無かった。他のホストがしているのも、あまり見たことがない。
……これは、瑞夢の本心なのだろうか。それとも。。。
瑞夢はすぐに離れて、俺の手を取ると、ゆっくりと引いた。
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