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ポリフォニー番外…ビターチョコレートのトリュフはワインにとかして…
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11月の第三木曜日。俺は毎年この日を楽しみにしている。この日は、その年収穫された葡萄で作られたワインの解禁日だ。最近のワインブームのせいか、ボージョレー解禁日という言葉を知っている人も多いだろう。正直言って、熟成されたワインに比べて、ボージョレーは今ひとつ物足りないところがある。だが、その年のワインの出来を知ったり、出来立てのワインを味わうには、ちょうど良い。

ボージョレーのテイスティング会を開く、と瑞夢に教えてもらった。ワイン好きの俺へ、婉曲な誘いの言葉かもしれない。テイスティング会に惹かれたからか…それとも、瑞夢に会う理由が欲しかったのか……俺は解禁日翌日の金曜日に予約を入れた。

「いらっしゃいませ、貴志さま。どうぞこちらへ」

案内されて、時々一杯カクテルを引っ掛けるために行くバーカウンタへ。様々な国、様々な葡萄園のワインたちが、真新しいラベルで行儀良く並んでいる。良くこれだけ集めたものだ…ここは昨日からワイン一色に染まっているようだった。他の席では、他のホストと他の客が、楽しそうに、時々静かに、ワインを味わっている。

俺は一番端っこの席を選んで、隣に瑞夢を座らせた。目の前にシェリーグラスが3つ置かれ、次々に少量ずつのワインが注がれていく。生産国とワインの名前を教えてもらいながら、口をつける…うん、今年のものは悪くない。

少しずつ、様々なものを試す。ワインは好きだが詳しいわけではない。だから、ソムリエの薀蓄は要らない。それより、

「いかがですか」

隣でゆったりとした笑みを浮かべている瑞夢が居る方が、ずっと重要だ。いつもどおり穏やかな目が、眼鏡の奥からワインの味を伺ってくる。瑞夢自身は飲めないから、形だけグラスを持っていたが、口をつけていない。

そして、ワインに合うと思って、とそっと生チョコレートのトリュフを出してきた。……おそらく、瑞夢自身が作ったのだろう。洋酒を効かせることも多いトリュフだが、今回はワインに合わせるためか、酒の匂いはしない。その代わり、濃厚で苦いチョコレートとそれに甘く絡んだ生クリームの味がした。文句なしに美味しい。

ワインの香りと心地よい渋みが残る中に、ココアパウダーで覆われたトリュフを放り込む。口の中で溶けて、ワインの香りと混ざる。それはうっとりするような瞬間だ。甘いトリュフの後味が残るまま、ワインを口に含むのも、またいい。

もっとゆっくり、このトリュフとワインを味わいたかった。俺は十数ほどテイスティングして、その中から気に入ったものを一本選んだ。

「このワインが気に入った…部屋でゆっくり飲もう」

瑞夢を誘う。

「いつもの部屋でよろしいですか」

「そうだな……あ、いや…前に言っていた部屋、空いてないか?」

瑞夢は「前に言っていた部屋」というニュアンスだけで、どの部屋か分かったらしい。枯野原の部屋でよいか、と確認される。……そう、そういえば、そんな名前の部屋だった。いつか、瑞夢のイメージにぴったりだと思った部屋。うなずくと、ご用意しましょぅ、とボトルとトリュフをボーイに渡している。俺は最後のテイスティンググラスに残っていたワインを飲み干すと、瑞夢に連れられて席を立った。



やはり、この部屋は瑞夢にぴったりだ。落ち着いた色合い、主張がないようでいて、しっかりとした存在を持っている。渋くて彩度の低い色でまとめてあるのに、不自然に暗い雰囲気は無い。部屋に着いたときには、見えないところで働いているのであろうボーイのおかげで、ワインとトリュフがスタンバイされていた。

ソファに落ち着くと、瑞夢がワインをあけてくれるのを眺める。相変わらず、綺麗な手つきだ。グラスに注いでもらうののお返しに、瑞夢っぽい色のクッションを、瑞夢に押し付けた。

「……?」

不思議そうにしながらも、受け取って腕に抱いている。…うん、やっぱり似合うな。俺はワインを一口飲んで、トリュフを一つ口へ放り込んだ。口の中で、ワインとトリュフの味がとけて混ざり合う。なんだかこの味も、瑞夢のイメージに合う気がする。

「美味いぞ」

「ありがとうございます」

トリュフを一つつまむと、瑞夢の口に押し込んだ。

「な?」

顔を覗き込むと、瑞夢の表情がふっと一変した。鮮やかな笑み。トリュフを押し付けた腕を押さえられ、指先についたココアが舌先で舐め取られる。それだけなのに、すごく性的なものを感じた。

「お気に召して頂けたなら、お持ち帰りしますか?」

すぐに分かった。持ち帰ってよい商品が3つあることに。全て俺の好きなものだ。

「あぁ、全部、もって帰る」

トリュフとワインと…瑞夢も。

「欲張りですね」

腕が俺の身体を抱き寄せて、そう囁いた。捕らえられていた腕が解放され、俺は瑞夢の唇をなぞって手を引いた。その手で、ゆっくりとグラスを傾ける。そして、誘われるまま肩に頭を凭せ掛けて。腰を撫でられ、片手に持ったワインがゆらりと踊った。また一口含んで香りを楽しみ、若い味を満喫する…そこへ瑞夢の手によって、トリュフが触れた。口を開いて、甘いお菓子を受け入れ、唇についたココアパウダーを舌先で綺麗にした。



よく利用するホテル…いつも、カツミに抱かれている部屋。部屋は何時来ても綺麗に、同じように、整えてある。なのに今、部屋にはないものを見そうになっている。

……そんなに飲んだ記憶はないんだが。瑞夢が持って来てくれているボトルも、ほとんど減っていないくらいだ。テイスティングはそれなりにしたが、量は少なかったはずで…。テーブルにボトルを置き、バーカウンタからグラスを取ってこようとする瑞夢を押しとどめる。

ゆっくりとした動作で、抱きついた。トレンチコートを着たままの肩に、頭を押しつける。コートの首もとを引っ張ってくつろげると、首の素肌をさらさせ、冷たい頬をくっつける。冷たいという抗議の声と一緒に、背中を抱き返された。

「トリュフは冷蔵庫へ仕舞っておきましょぅか」

「あぁ、そうしてくれ」

荷物を片付けるのを待つ間、コートを脱いだ。コートはソファの上に放置だ。そういうのを片付けるのが好きな瑞夢が、片付けてくれるだろう。先にベッドへ行って、ふかふかの羽毛に沈み込む。暖かさを堪能していたら、全てを片付け終えた瑞夢が、背中から被さってきた。

「……何を、考えていらっしゃるんですか」

敵わないな…カツミのことを思っていたことが、ばれている。もちろん、そんなことはお首にも出さず、何でもないとかわして、瑞夢の首を抱き寄せた。

それだけで、目の前の存在が欲しくてたまらなくなった。

キスしたい、キスして欲しい、触れたい、触れて欲しい、抱きしめたい、抱きしめて欲しい。肌を這うようにして脱がせていく手に煽られ、求めようと伸ばした手はやんわりと逃げられた。空調のきいたホテルの室内に、二人分の息が、穏やかに馴染んでいく。染みていく雰囲気を作っているのは、眼鏡を掛けたままの顔に浮かんだ、意地の悪い口元なのか…それとも、直接触れ合う熱さなのか…。

のまれていく。

穏やかな、それでいて温度の高い情事。カツミとは正反対の。不意に先日、同じ場所で行われた、カツミとのSEXが頭の中をよぎった。強い腕が全てを奪おうとするような…。情景が浮かんだのは一瞬だったが、瑞夢はその瞬間をねらい澄ますように、俺の弱い部分へ唇を寄せてきた。

「ふふ、どうしたんです?」

……しまった、カツミのことを考えていたことがばれたか?

「っ…な、んでもない…」

「そうですか。ではこれは…何ですか?」

これとは何だ? 分からなくて瑞夢の顔を見たら、唇を寄せていた部分…首筋から指を滑らせて、首の根本の後ろあたりを示された。ただ、示されても分からない。

「…何だ?」

聞き返したが、

「あぁ、気づかれてないのですね」

瑞夢は笑って、指で押さえている場所へ顔を埋めた。肌がきつく吸われる感覚。……これは、もしかして。

「貴方は色が白いから…綺麗ですね」

うっすらとした微笑みを浮かべて、おそらくキスマークを付けたんであろう場所を見…満足そうに言う。おそらく先ほど瑞夢が言いたかったのは、カツミに付けられたキスマークに違いない。にしてもあいつ、何時の間につけやがったんだ。今度から付けないようにキツく言っておこう、と決意する。

「……っ、そこは、やめろ」

カツミがいつ俺にキスマークを付けたのかを考えていたら、瑞夢の口が首筋に触れたのに一瞬気づかなかった。つっと舐め上げられ、ぞくりと肌が粟立って…気づいた。耳の下当たり…ワイシャツでは隠れそうにない。そして、髪もかからない、微妙な位置。慌てて手で押さえる。

「ふふ、こちらには気づかれなかったのに…」

からかうような声。先ほどの場所へ触れる指先。覗き込んでくる目が、笑っている。悔しいから、メガネを外させてキスを強請った。優しく触れて、啄んで、舌先で続きを強請る。それで、中断されていた情事が再開された。



遠回しな言葉と意地の悪い口調。瑞夢がやんわりと婉曲に、キスマークのことをからかってくる。……それも、身体をつなげてから。ベッドに両手と両膝をついて、後ろから身体を抱かれるようにして…そして耳元で囁かれる。

「……気づかないほど、強く抱いてさしあげましょぅか…?」

「んあぁ…っぅ――ず、いむっ…!」

片腕が身体をしっかりと抱きしめる感覚が好きだ。腰を引かれた一瞬後、打ち付けられるのに合わせて、自分の腰が揺れるのが分かる。……分かっても、止められない。快楽にのまれて、より感じようと、敏感な部分に瑞夢を受けようと、もがくように。

「ほら、綺麗に付ききましたよ」

「な…ぅあ、ぁ…」

何がだ、と聞きただそうとしても上手くいかない。今更より強く、ワインが身体中にまわっているのを感じた。背骨をたどる指が一点で止まり、

「ワインの色ですね」

……あぁ、キスマークをまた付けられたのか。もう何個付けられたか、数えていない。ただ、いくつもいくつも、楽しそうに刻んでいく表情を思い出すだけで、身体が震えた。そして震えるたびに強く締め付けて、瑞夢の形を感じた。その度に背中で低く呻く声がして、お互いの余裕が無くなっていくのを感じる。

「んく…ぁ…瑞夢…も、ぅ…」

「ふふ、イった時、今度こそ見えてしまうところへ付けてしまいますよ?」

「…ば、かやろっ…あぁも…欲し…」

頭を振って瑞夢の言葉を否定し、腰を振って頂点を催促する。たまらなく欲しいのに与えられないもどかしさ。自分で自分のペニスを握ろうとしたら、すぐに気づかれて阻止された。

「そんなにイきたいのですか?」

相変わらず、意地悪な声。心地よく戒めてくる見えない鎖。……もう、ワインの酔いのせいにして、終わらせてしまおうか。そんな考えがよぎったときにはもう、音になっていた。

「おまえのを…感じたい、から…!」

深くくわえこむように、腰を突き出して瑞夢のを奥に受ける。…白く塗りつぶされる一歩手前。目の前がちかちかする気がする。仕方ありませんね、という言葉と一緒に、俺の望む物は与えられた。

「ぅっ…く、ぁ、あ――ぁ――…っ」

「お望みのまま、感じて、くださいね…?」

「ず、ぃむ…っ瑞、む…!」

もう、意地の悪い台詞など聞いている余裕はなかった。ただ、名前を呼んで…ひたすら感じて。解き放った。

「……っぁ…!」

枕に埋められた、くぐもった声の後は、荒い息だけが残る。ちり、と背中に焼けるような感覚。あぁ、またか。明日の朝、背中に散った鮮やかな赤が、時間をおいてワインのような沈んだ色に変わっているのを、確かめるのが少し怖い。いったいいくつ、赤ワインの染みが出来ているのだろう?

「ふふ…綺麗ですよ」

心地よい、満足そうな声からすれば、そうとうな数なのかもしれない。

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後書きもどき。

甲斐の章、シンフォニアで。カツミに付けられたキスマークを甲斐に見つけた時の、瑞夢の反応をちょろっと書いた記憶があるのです(←記憶とかじゃなく、ちゃんと見直して確認しろよ)。

で、そのくだりを入れてみようかな〜と思って、エロを書き始めました。よって、時間軸の計算はしていません(汗)。なんだか、ボージョレーの時期じゃなかった気がするのですが(だから確認しろよ)。まぁ番外編だし、もし違ってても許してやってください(汗)。だって、ワイン色のキスマーク、っていう表現を使うのに、これほどぴったりな機会はそうそうナイト思うのです。

(すみません、確認してみたらやはり、本編で事が起きた日時より、この番外編の日時は2ヶ月ほど遅いようで。……まぁいいか。。。書いちゃったし/ぉぃ)

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