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狐の嫁入り 8月
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7月  Homeに戻る

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気分はもうずっと、重たいままだった。先月、先輩と…そして飲み友達と、両方ともが急に遠くなった。

僕が大好きだった先輩…いや、今でも大好きなんだけど、それは変えられないんだけど…。その先輩は、何を考えたのか知らないけど、先輩の親戚を僕に引き合わせた……僕がそうと気付かない形で。その先輩の親戚とは、僕がこの春に出会った、ゲイの飲み友達だった。同じ性癖を持つ相手…そして、愚痴を聞いてあげたり、相談に乗ってくれていた子だった。

僕の性癖を知らないはずの先輩。僕の気持ちを知らないはずの先輩。どういう理由で、僕とその子を会わせたんだろう? 恋人なのか、なんてからかわれたこともある。先輩にまとわりつく僕が邪魔だったから、その子をあてがうようなことをしたのかもしれない、とか……僕をからかって、同じ性癖の子を会わせてやれば、くっつくかもしれないという考えだったのか、とか……とにかく、色々ぐるぐる推測して悩んだりした。

だって結局、本当のところは分からないままなんだ。聞きただそうとして電話をかけた翌週、気まずくてお互いに避けてしまっていた。そんなことをしているうちに、先輩の祖父だか祖母だかが危篤状態になり、そのまま先輩は一週間ほど忌引で休んでいた。その後は、僕の仕事の関係で出張があったりして…本当のことが分からないまま、8月に入ってしまった。今更、聞くに聞けない。

ふと、名前を呼ばれる。顔を上げると、経理の女の子が立っていた。ふわふわとした髪が似合う、可愛い女の子……先輩の、婚約者。

「この間の出張費のことなんですけど…」

あぁ、事務的なことなのか。

「向こうで使ったタクシー代なんですけど、何回も同じ料金で使ってるみたいですが、この用途っていうのは何ですか? それとは別にバスも使ってますよね」

「あ、それなんだけど、お客さんのところが、バスが数時間に一本しか通ってないような場所でさ…。バスが無いときの、ホテルからお客さんのところまでのタクシー代なんだ」

「あ、そうでしたか。分かりました。……ところで、あの人と喧嘩でもしました?」

話の転換が急すぎて、一瞬何のことか分からなかった。

「へ?」

「先月ぐらいから、ずっと機嫌が悪くて…最初は理由が分からなかったんです。でも、どうも最近、貴方と全然話してないみたいだな、と気付いて…すみません、差し出がましいかもしれないんですけど」

女の子って、よく見てるなぁ。。。感心してしまう。確かに、ここ最近というか、一ヶ月くらい先輩と話してない。どころか、ちゃんとマトモに顔を合わせてない。でもこの子、先輩のために、僕のところまで来るなんて、スゴイなぁ…。僕なんか、気まずいってだけで会えないでいるのに。

「……うん、ごめん。迷惑かけて」

「きっとどうせ、あの人が悪いんでしょぅ…? 全く意地っ張りなんだから」

身内を言うような口調が、ちょっと辛い。僕に先輩をそんな風に言う資格は無い。羨ましい…違うか、悔しいんだ。苦笑いして誤魔化す。ごめん、ともう一度謝って終わりにしようとした。だが、女の子は厳しい…というか、ちょっとしつこい。だから苦手なんだよなぁ。。。

「詳しい話、聞かせてもらえませんか」

「えっ…」

「あの人、絶対話してくれないんですもん」

そりゃ、言えないに違いない。特に、僕が先輩を好きだと口走っちゃった件(くだり)なんかは。結局僕は、明日会社をあがってから、彼女に付き合わなければいけなくなってしまった。どうにもそういうとこ、押しに弱い。…直したい欠点の一つなんだけど、なかなか難しい。7時に近くの居酒屋、という約束を念押ししてから、彼女は去っていった。

……つ、疲れた。

どっと力が抜ける。知らないうちに緊張してたみたいだ。可愛くて、ちょっと強引で我が儘で…普通の男の人は、ああいう女の子が好きなもんなのかな?……先輩も? うぅ。。。凹んできた、このこと考えるのはやめよう。

にしても…先輩、機嫌が悪いってホントなのかな。きっと僕のせい…だよね。僕が、迷惑なの分かってて告白なんかしちゃって。それで、先輩とあの子が隠してたことをなじっちゃって……や、これは先輩も悪いと思うんだけどさ。あーぁ…。にしても、先輩の婚約者なんかに、何を話せばいいんだろ? 先輩を好きになっちゃいましたゴメンナサイ、というわけにも行かないし。それに、これまでの経緯を詳しく何て説明できないし…。

困った。



次の日、会社を上がった僕は待ち合わせている居酒屋へと向かった。結局、困ったまま。だって、どうすればいいのか分からないんだもん…。経理部を覗いたけど、彼女はもう会社を出てるみたいだったから、急ぐ。店に入ると、見知った声が聞こえた。見てみると…やっぱり先輩だ。な、何で? 彼女が呼んだのかな? どうしよう、どうしよう。心の準備が…!

「おかしいな…ホントに待ち合わせで待ってる人居ないの?」

何かを考える前に、身体が逃げる体制に入っていた。

「本日は、団体のお客様が2組しかいらっしゃいませんので……」

困ったような店員の顔。先輩が、あいつどこいったんだ、とぶつぶつ呟いている。……と、店員がこちらを見た。ん?

「あ、お客さま、待ち合わせてるのははあちらの方じゃ…」

げっ。先輩が振り向く。あわてて逃げようとしたけど、遅かった。

「おい、何逃げようとしてるんだ」

店員は一人勝手に、これで解決と安心して、無責任にニコニコ笑ってる。違うのに…。先輩は、仕草で店を出ることを示して、僕を追い立てた。逆らわずに外へ出ると、先輩が苦笑いしている。

「あいつにハメられたな」

ハメられた…っていうと? えーと、もしかして、彼女が僕と先輩を会わせようと仕組んだってこと、なのかな…。一ヶ月前に比べれば、気持ちも大分落ち着いてきた。けど、わだかまりが大きくなったのも確かだ。今突然こんな風にされると、どうすればいいか分からなくなってしまう。情けない話だけど、もっと自分の考えを整理する余裕が欲しかった。

「なんて顔してるんだ、行くぞ」

「へ?」

行く? 行くってどこに? 歩き出した先輩が、数メートル先で僕が付いていっていないことに気付いて、振り返った。

「何時までそこに突っ立ってるつもりだ?」

「あ、ぇ…はい! い、今行きます」

僕はあわてて答えた。だって、付いていかなきゃいけない雰囲気なんだもん。…あぁ、もしかして僕、また流されてる? こんなはずじゃないのになぁ。先輩のことになると、どうも駄目みたいだ。向かった先は、飲み屋ではなく、コーヒーショップだった。秋葉原駅の入り口入ってすぐに入ってるトコ。先輩がベーグルサンドも頼んでいるのを見て、ここで食事も兼ねて話しをするらしい。僕も、珈琲とソフトフランスパンのサンドイッチを買った。

「とりあえず、謝らないとな」

席に着いたとたん、だった。こんな直球でこられるとは思わなくて、すぐに返事が出来ない。

「ごめん、悪かった。……ただ、言っておきたいんだが…あいつとお前を引き合わせたのは、俺じゃない。偶然なんだ。あいつから、お前の話聞いたときは、吃驚したよ、ホント」

先輩は、言いづらそうに一気に喋ってる。珈琲が入った紙コップに手もつけずに、テーブルの上で拳が固く握られていた。あいつというのは、僕がゲイバーで知り合った子のことなんだろう。僕が、何か言おうとしたら、すぐに遮られて、

「ゴールデンウィークの時のこと、覚えてるか? 突然、お前居なくなっただろ。あの時、あいつを飲みに誘おうと電話したらさ…電話越しにお前の声聞こえるんだから、吃驚したぜ、ホント」

じゃぁ、少なくともあのときまでは、本当に「偶然」だったんだ…。

「雨の日、むりやり紫陽花を見に付き合わせたとき、俺がカマかけたの覚えてるか? 新宿のバーで…何て言ったかな、一緒に居たヤツは恋人なのかとか、なんとか…。実は、ちょっとからかおうと思っただけなんだ。あいつがゲイだし、俺はそういうのに偏見もってるつもりはないんだけど…お前がそれを隠してるのが気になってさ」

そうか、ただそれだけだったんだ。僕は、先輩にあんなこと言われたもんだから、すごく焦っちゃって…。焦っちゃって…。……焦っちゃったことしか、覚えてないんだけど。

「冗談のつもりだったんだ…なのに、お前の様子おかしくなっちゃうし。何だか落ち込んでるみたいだったから、また店行くかな〜…と思って、あいつに連絡入れて置いたんだ。だれか愚痴言う相手が居た方がいいだろ、って思って。……まぁ、つまり、あの時からは偶然じゃないんだ。ごめん」

先輩が、口の中で何度も、ごめん、と呟いている。

「お前を追いつめるつもりなんて、無かったんだ」

「そんなことに、なるはずじゃ、無かったんだ」

何度も、そんなようなことを言っては、首を振っている。……先輩も、悩んだんだ。ねぇ、そうなんだよね? そう思っていいの? 僕のために…悩んでくれたの?

「先輩…」

「実を言うと」

黙ってしまうのが怖いように、先輩が更に続ける。お互いに手を付けてない珈琲の紙コップが、最初の位置のまま、冷めるのをただまっていた。それを、勧める。そして、僕も飲む。先輩は、少し落ち着いたみたいで、ゆっくりとしゃべり始めた。

「お前がゲイだって知って、何となく分かってたんだ。……うぬぼれかも知れないけど、もしかしたら、って。お前の気持ち、何となく分かってたんだ」

うっ…ば、ばれてた…?

「は、はずかしー……」

僕、絶対真っ赤になってる自信がある。うわーっ、ものすっごい、恥ずかしいんですけどっ!

「なのに、先月飲みに誘おうとしたら、恋人とデートだって言っただろ、お前」

ん?

……恋人? と、デート??? 何だ、それ。

「言いましたっけ?」

「言った!」

「い、言ってませんよ。第一恋人なんて居ませんもん」

「嘘付け」

「嘘じゃないですって…あ、そう、そうだ。先輩が『恋人とデートか』みたいなことを言うから、大好きな先輩にそんなこと言われて、僕すごい哀しくて…哀しくて……確か、そんなものだって誤魔化したんです。それだけです!」

だんだん、お互いムキになってきた。自然に声のトーンと大きさも上がっていて、慌てて口を押さえる。そして珈琲を飲んだ。先輩も僕に習う。

「……なんだ。俺はてっきり、恋人とデートだと思いこんで…。お前が誰か他のやつと、そうしてるのかと思うと、すげぇ腹たって……や、俺が怒っても仕方がないのは分かってんだけど。とにかくそれで、むしゃくしゃして酒飲みまくったんだ」

「で、あの子のところへ酔った勢いで電話して、僕にばれたってわけですか…」

「そ」

不本意そうに頷いて、先輩はようやくベーグルに手を伸ばした。でも…それにしても……何で?

「何で、先輩怒ったの…? 僕のことなんか、関係ないはずなんじゃ…?」

「てめぇ、今度関係ないとか言って見ろよ…俺はもう一生口きかないからな!」

えっ、そ、そんな啖呵切られても…っ。

「馬鹿か、お前は。お前が他の誰かと仲良くしてるのが、嫌だったからに決まってるだろ! それくらい分かれよっ!」

「……え? えぇと、と、いうと…?」

駄目だ、頭が、ついていかない。

「言っておくけど、俺は欲張りだぞ。婚約を破棄するつもりもなければ、お前も欲しい」

つまり、それって…僕は、先輩を好きでいてもいいってこと? そんでもって…先輩も僕を嫌いじゃない、ってこと…?

「……構いません」

「あいつも、お前も…どっちかなんて選べない。両方とも欲しい。本当にそれでいいんだな?」

「はい、大好きです…先輩」

「お前、実はかなり馬鹿だろ?」

馬鹿でもいいんだ。だって先輩が、ちょっと照れくさそうに嬉しそうに、笑ってくれたから。僕たちは、ようやくサンドイッチを食べ始めた。さっきから、照れて小声になっていて、顔を寄せ合ってひそひそ話の体だった。それをを、背筋を伸ばしてしゃんとする。あぁ、何だかすごく美味しいや、このサンドイッチ…。

「ごめん、仕事が長引いちゃって」

サンドイッチを食べ終わる頃、突然声が割り込んできた。あの子だ。バーでの飲み友達。先月から、会ってなかった。でも、何でここに? 僕がびっくりしていると先輩が、俺が呼んだんだ、と空いている椅子をその子に示した。

「その感じだと……丸く収まっちゃった、のかな」

その子は座りながら、僕たちを交互に見て笑った。とたんに、僕が赤くなると、正直すぎだと背中を叩かれた。でも、先輩だってそっぽを向いた耳が赤くなってたんだ。一緒なんだよね…? この、恥ずかしいような、照れたような、嬉しい気持ちって。。。

「ごめんね」

突然、僕の背中を叩いた手を、背中に触れるか触れないかで止めて、その子が呟いた。何のことかと、まだ赤いだろう顔を押さえながら、頭を上げる。……真剣な顔をしていた。隣の先輩も見たら……やっぱり、真面目な顔になってた。

「兄さんがいったと思うけど…一番最初は、ホントに偶然だったんだよ。もちろん、俺が失恋したってのもホント」

軽く冗談みたいに付け加えてる辺り、もうふっきれたのかな…?

「そりゃもちろん、兄さんから連絡あって…あのバーに行ったりしたこともあったけど。でも、落ち込んでるって分かってる友達を、ほっとけないだろ? 元気づけてやりたいって、思うじゃん普通。……まぁ、兄さんに対しての気持ち知っておきながら、黙ってたのは悪かったと思うけど…」

でも、それは…。言われても、仕方がないことだし。第一、どうにかして貰えるようなことじゃ、無いんだし…。僕が何か言おうと、口をぱくぱくさせてるのに気づいたんだろう、その子が掌でそれを制して来た。

「知り合いだって事前に話しておけば、こんなに、こんがらがった話しにはならなかったはずだもんね」

それは、それは…そうかもしれないけど。この子が悪いわけじゃ、無いはずなんだ。

「ま、でも。上手くいって良かったね、兄さん」

「……へ? えっ、な…お前なっ」

先輩が赤くなってる。可愛いなぁ…。

「何だよ、お気に入りの後輩だって言ってたくせに。お気に入りの後輩が恋人出来たみたいだって、悔しそうにくだ巻いてたの、どこの誰だよ」

「ば、馬鹿野郎っ、それ以上言うんじゃねぇ!」

可愛い…。というか先輩、口が悪くなってる。慌ててる先輩に、からかってるあの子。変な光景だなぁ。先輩は、それ以上何か言われない内にと、慌ててベーグルサンドを珈琲で流し込むと、出るぞと席を立った。僕も、最後の一口を飲み込み、珈琲を飲み干して、続いた。

「ふーん、兄さんの言うことなら素直に聞くんだ?」

「えっ、う…っうぅぅ……」

え、えぇと…。あぁ、どうしよう。からかってきた子が、すごく嬉しそうににやにやしてるのが分かる。悔しいけど…何も言えない…ちくしょ。

「……ちぇ、羨ましいな」

「ごめん」

何も言うことが出来なかった変わりに、謝る。ゴメンナサイ…。だって、それ以外に言葉が思いつかないんだ。

「謝るところじゃないだろ、そこは。今度また愚痴に付き合わせるんだからな」

「うん、分かってる。また遊ぼう」

「………『先輩』はいいのか?」

また意地悪く聞いてきたけど、そう何回も引っかかってたまるか。

「先輩は先輩、君は君でしょ。それに……友達、なんだよね?」

にこーっと笑って見せたら、そういう方向に持ってくか、と顔に手を当てて、呻いている。ふふ。やられた、って悔しそうだ。そういうトコも、ちょっと先輩に似てるかな。

でも、ちょっと様子が変かも知れない。早く店を出ようと言いながら、急いで先に行ってしまう。何だか、焦ってる見たいな…どうしたんだろう。さっきまで普通、だった気がしたのに。早く恋人作らなきゃ、とかいきなり焦りだしたってことは、無いよね?

「じゃ、また明日会社でな」

「あ、はい。お疲れさまです」

「また今度飲もうね〜」

先輩とあの子は同じ方向なんだろう。僕だけが、別の方向に歩き出した。



「……ずるいね、一人だけ」

それは、ぽつりと呟かれた言葉だった。僕を見送ってくれた手を下ろしたあの子が、小さく零した言葉だった。目の前には、先輩しか居ない。先輩へ向けた言葉なんだろうか。

「お前、まさか…」

駅へ向かって歩きかけていた先輩が、足を止めてその子を振り替える。

「まさか? まさか、って何? 考えたことなかったなんて、言わせない。上手くいかない恋の相談に乗ってあげた理由が、兄さんから言われただけ、なんていうこと…あるわけないだろ」

「馬鹿、だったら何で…」

だんだん声が大きくなるあの子の肩を掴んで、先輩がはじっこへ引っ張っていく。あの子は……泣きそうな顔をしていた。

「あんなに兄さんのことしか見てない人を、俺がどうこう出来るわけないの、知ってるくせに」

まるで、押し殺した泣き声のような、声。

「違う。何でそれを早く言わなかった? だったら連絡なんて入れなかっただろう」

「馬鹿は、兄さんの方だ……ねぇ、好きになるってどんなことか、分かってる?」

「……」

「会いたい…会いたいんだよ。会いたかった、それだけなんだ」



気になっていた。様子がおかしかったんだ。どうしても気になって、僕は戻ってきてしまっていた。……先輩とあの子に別れた場所へ。まだ、二人はそこに居た。そして、僕は聞いてしまったんだ……。

「!」

先輩が、ふとこちらに気づく。少し離れた場所に立って、途中から二人の会話を聞いてしまっていた僕は、咄嗟に何も出来なかった。逃げるとか、言い訳するとか、そういうことは全然思いつかなかった。でも、今すぐ言わなければいけない言葉があるのを、僕は知ってた。

「ごめん…ごめんね。僕、自分のことしか見えてなかった」

君の事を考えてなかった。

「…馬鹿」

「馬鹿でもいいよ…ごめん……」

君の気持ちに気付いてあげげられなかった。先輩を追うことだけに一生懸命になってた。友達の辛さを、察することが出来なかった。

「馬鹿」

「うん」

「馬鹿…はやく、行きなよ」

「……うん」

「俺は、大丈夫だから。一人になりたいから…早く、行きなよ」

「うん、じゃぁ…おやすみ」

君を好きになれていたなら、どんなに楽だったろう。

先輩に背中を押されて、今度はあの子を一人残して歩き出す。何で、こんなにも辛いんだろう? 何で…こんなにも……苦しいんだろう。僕は先輩が好きで。あの子は僕のことを好きで。でも、お互いにどうしようもないことが、分かってしまっている。

もっと、突っ走れれば良かった。やりきれないくらい、ご都合主義の恋愛漫画みたいに、都合のいいハッピーエンドに向かって行ければ良かった。先輩はとりあえず、僕を駅の外へと連れだした。あれ? でも考えてみたら、僕も先輩も、JRを使うんだから、進むべきは駅の中じゃ…?

そうか。先輩は、僕と一緒の方向だから、さっきも一緒に帰ったって良かったんだ。なのに、あの子が凹んでるの分かってたから、僕を先に帰して話しを聞いてあげるつもりだったのかもしれない。じゃぁ、悪いことしちゃったのかな。

……。

「馬鹿、何でお前が泣いてんだよ」

……。

秋葉原の、空。狭くて真上をむいても、まだ狭い。明るく照らされた夜空は、月と、微かにはじっこに小さな星が見える。晴れた夜空。それを眺めながら黙っていたら、先輩のハンカチが僕の顔に押しつけられた。

また、何で泣いてるのかと言われたような気がする。

だって、あの子の気持ちが分かるから。それは、つい昨日まで僕が抱いていた思いだから。今泣かなくて、何時泣けばいいんだろう。今を逃してしまったら、絶対後悔すると思ったんだ。

「泣いてなんか、ないです」

ようやく、僕は否定した。ハンカチも使わずに。

「そうかよ」

「はい」

先輩は諦めたみたいに、僕の背中を優しく叩いてくれた。

「俺が雨好きだからって、季節外れにこんなところで降らすことはないだろ…馬鹿だな」

空は、晴れている。ただ局所的に、僕のところだけへ、狐の嫁入りがやってきただけなんだ。

狐の嫁入りがやってきたのを、拒否しても否定しても、辛いだけだ。そういう時くらい、素直に雨を貰っておかないと。……何時泣けばいいのか、分からなくなっちゃう。それに、ここで泣くのを我慢したら、あの子にも申し訳ないような、失礼なような…そんな気が、したんだ。

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後書きもどき。

↓↓↓書いた当時の後書き↓↓↓

おわった…。

誰が何と言おうと、これで終わりで御座います。疲れた…。小説を書くのにこんなにも気力を使ったのは、初めてかもしれないってなくらいに、疲れました。ぅうう…。

オイラが資格に受かったら、こういうストーリー展開にするつもりで居ました。それは、もう4月を書くときに決めていました。6月を書くときに、受かった方向に話しを進めるように、軌道修正しました。受からなかったら、今回ふられちゃってる子とくっつける予定でした。

その時も、今回も、結局は主人公を泣かせたいと思っていたので、タイトルは狐の嫁入り、です。最後だけ決まってたので、タイトルが付けられたって感じですね。ありがちなタイトルですが…ちょっとだけ、気に入っています。



ただ、7月下旬、8月頭…。この8月分を書くのが、今までと比べて辛かったです。現実の一部分と、この話しの一部分がリンクし始めまして。それが非常に辛かったです。オイラがたってる立場は、今回で言う「先輩」の立場なので、なおさら…。主人公をどのように行動させても、偽善でしか無いような気がしてしまって。。。先輩にどう言わせても、先輩と自分を重ねてしまって。。。

辛かったです。小説は小説、自分は自分と割り切って無理矢理書き上げてしまいましたが…。ちょっと納得いっていない部分もあります。いずれ、全てを本公開するとき、色々手直しが必要そうですね(遠)。

まぁ、とりあえずは終わりましたし。これでゆっくり休めます(笑)。最後になりましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。限定で連載なんかして、ごめんなさい(汗)。来年の春くらいから、本公開しようと思っていますので。またその時は宜しくお願い致します(礼)。

↑↑↑書いた当時の後書き↑↑↑



↓↓↓再公開時に追加した後書き↓↓↓

本当は、色々書き直したかったはずなのに…。なんかもう、読み直したらどうにもならない気がしてしまって。。。直すのはやめました。一応、話の筋が追いやすいようにはしたつもり…つもり…つもり……なんですが。

↑↑↑再公開時に追加した後書き↑↑↑

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