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失われた者 1
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「ただいま」
こう言って家へ帰ったとき、夕食のいい匂いがするのはいいものだというのは、彼女と結婚して思ったことのひとつだ。わびしい借家住まいの外食ばかりの毎日を送っていたせいかもしれないが。今は中学に上がったばかりのカズミが夕食当番を引き受けてくれていた。たいてい帰りの遅い俺は、もっぱら片付け役。帰ってくるとまず、ワイシャツを脱いで洗濯機へつっこみ、回してから、カズミの作ってくれた食卓の席につく、というのがいつものパターンだ。
「おかえり、味噌汁もってって」
キッチンから顔を出さずに答えるカズミは、まだちゃんと着替えてなくて学校の制服を半分着たまま、彼女が使っていたエプロンをつけていた。ワイシャツを洗濯機へ入れてから、手洗いを済ませると、言われたとおり味噌汁を食卓に並べる。あとは御飯をカズミが持って来れば終わりのようだった。
数分後、ふたりで向かい合って夕食を取る。なるべく、夕食だけでも一緒に食べるようにしていた。朝は俺の方が早く起きて作り、食べてから出て行く直前にカズミを起こすので、一緒には食べられないのだ。
ニュースを見ながらの食事をし、CMの間を見計らって、ぽつぽつとその日のことをお互い報告しあう。これらは決めたことじゃないが、何時の間にか習慣化していた。この日、カズミが何時もの言葉を口にしたのは、食べ終わった食器をキッチンへ片付けに行くときだった。
「ねぇ、お父さん。今日も一緒に寝ていい?」
カズミと一緒に寝るようになったのは、彼女が亡くなってからだった。最初、ふたりがふたりとも、ショックから抜け出せず、呆然としていて、お互いの足りなくなった部分を埋めるように…急に広くなってしまったダブルベッドで一緒に丸くなった。
それからというもの、お互い寂しくなると、普段一緒に居る時間が短いのを埋めるようにして、よく一緒に寝るようになった。
「まくらは持って来るんだぞ」
彼女の枕は、どっちかが、寂しいけど一人なときにぬいぐるみのように抱きしめる、というきわめて消極的な使われ方をしていた。未練が残りすぎているのだ。突然すぎて、幸せだった分のしっぺ返しがきつく、今でも彼女のものは何一つとして棄てることが出来ないままだ。
彼女の死から半年、ようやくお互いに立ち直りかけてきていて、最近ではちゃんとひとりずつで寝るようになっていた。おそらく、何か辛いことがあったのだろう。自分が寂しくないわけではないので、つい甘くなってしまうのはよくないだろうか。
「久しぶりに、一緒に風呂に入るか?」
もうすぐ夏休みが近づくにつれて、気温は上昇し、さっきも汗をかいて帰ってきたところだった。本当ならシャワーを浴びてから夕食といきたいが、そんなことをしているとせっかくの食事が冷めてしまうので、たいていいつも後回しだ。
さっきの問いに、カズミが頷いたので、今俺はのんびりと背中を擦ってもらっていた。
「カズミもうまくなったな〜」
すっかりオヤジめいた発言は、でしょ? というカズミの楽しそうな言葉によって中和された。年の近すぎる子供…どちらかというと兄弟に近いだろう…だが、やはり近しいものが居るというのはいいことだ、などとすっかり所帯じみたことを考えてぼーっとしていたら、カズミに顔面シャワー攻撃を食らってしまった。
「お父さん、なにぼけっとしてるの。はやく入ろ」
言いながら先にお風呂の中へと入るカズミを追って、身体の泡を流してから湯船に浸かると、何時ものことだが湯があふれた。
「ふ〜」
マンションの狭い風呂では、カズミが育ってきた今、ふたり一度に入るのはきつくなってきているが、それでも俺がカズミを後から抱くようにして、カズミが俺に寄りかかるようにして、ふたりで湯に浸かった。
しばらくは、ちゃぷん、と時折水が鳴る音意外は耳に届かず、ぼんやりと時間を過ごす。何故かこの時間はいつもふたりとも喋らず、無意味に時間を過ごしていた。次に口を利くのは大抵、どちらかがそろそろ出ようか、という時。
しかし、今日は違ったようだ。
「お父さん」
カズミに呼ばれ、ん? と答えるが、次の言葉はなかなか出てこなくて、結局俺がのぼせる前に出るか、というまでいくら待っても続きが聞けなかった。
俺はベッドの中でのんびりと本を読み、カズミはどうやら机に向かって宿題をしているようだ。10時近くになると、枕持参で来たカズミがベッドの中へと入ってきて、寝ることになるようだった。
隣にもぐりこんでくる小さい体を見ていると、カズミが居てくれてよかったと心から思う。居なかったら、彼女を失った事実に向き合うことすら、出来なかっただろう。彼女の死からの回復は、俺よりカズミの方が早く、子供ながらに慰めてもらったことは何回もあった。
大丈夫だよ、お父さん、僕が居るよ。
お母さんの分まで、僕たち幸せにならなきゃね。
一生懸命考えて、なんとか俺を浮上させようと、沢山の言葉を貰った。
「…さん? お父さん?」
ぼんやりとそんなことを振り返っていたら、カズミに呼ばれたのに一瞬気付かなかった。
「何ひとりでにやけてるの。気持ち悪いよ」
そうか、にやけていたのか……。気が付いたら、胡乱げな目でこちらを見上げているカズミが居た。苦笑して何でもないよと言いながら、前そこに彼女が居たときそうしたように、ぎゅっと抱き寄せ、くしゃくしゃと髪を撫でた。彼女はこうすると嫌がったっけ…。
「もーお父さん、どうしたの?」
カズミも彼女の意見に賛成らしく、文句を言いながら髪を直している。
「いや、カズミが居てよかったな、と思ってね」
再び何でもない、と笑って、わざと痛いくらい腕の中の相手をぎゅうぎゅうと締め上げると、殺される〜などと可笑しそうにはしゃいでカズミが腕の中で暴れる。
一通りベッドの中で騒ぎ疲れ、そろそろ寝るかとなったときに、
「お父さん」
風呂場の時と同じ顔で…それは酷く真剣で、悲痛な表情だった…カズミが俺を呼んだ。
「ん? 何だ?」
顔を覗き込んで、待っても、やはり続きは無い。それでも辛抱強く待っていると、ようやくぽつりと続きがカズミの口から漏れた。
「僕、どうしよう…?」
抽象的な言葉は切羽詰って響き、どうしたんだ? と聞き返したら思わずと言った感じで目から涙がこぼれた。それを指先でぬぐってやり、話の続きを聞く。
「僕、僕…。あの…っ」
言い辛そうに、何回も似たようなことを言っては、肝心なことを言わず繰り返し、何やら身体をもぞもぞさせているのを見て、ピンと来た。
「もしかしてカズミ…」
視線は自然とベッドの中の、カズミの身体へと落ちると、かぁあっと赤くなって俯いてしまった。やはり、どうやら射精を迎えたらしい。何時の間にか育っていたわけだ。まぁむしろ、中学にあがってからだと遅い方なのだろうか。最近はどうなのかよく分からないが。
「大丈夫だよ、カズミ」
再びあやすように抱き寄せて、落ち着かせるように背中を叩く。
「いきなり黒いおしっこが出たんだろぅ? そんでもって、ある朝起きたら、パンツが汚れてたんだろぅ?」
今の子供は、ちゃんとした性教育を小学校で受ける。それでも、罪悪感や、初めての射精は夢精で迎えやすいことから、悩む子供も少なくない。
「普通に、良くあることだよ。カズミが変なんじゃない。もちろん、病気でもない」
実際、性をある程度コントロールできるようになれば、夢精も減るが、今は言わないで置いて、真っ赤になって俯いたままのカズミの頭を軽く叩くようにして撫でると、おそるおそる顔を上げた目と目が合った。
「…ホント?」
「ほんとほんと。誰でも普通になることだし、それが大人になるってことなんだよ」
こういうことを話してると、自分がお父さんなんだなぁ、ということを実感する。
「僕、朝起きてたらなんか変で……どうしようって凄く悩んで……」
うー、と安心したのと、言って楽になってしまいたいのとで、半分泣きながら訴えるカズミをあやし、大抵の父親がするように、自分の経験を織り交ぜて、話を聞かせる。11時が近くなるころには、カズミも落ち着いて納得したようで、俺の話に笑いすらしていた。
「しかし…そうか〜カズミももうそんな年なのか〜」
しみじみと言うと、なんだよっと照れたように怒られた。
「統計によるとだな、10代の男の子は、週に6〜8回、射精するのが健康的なんだぞ」
にやりと笑って言い返すと、驚いたようにえっと固まっている。だが、そのうちそれが真実であることを、身をもって体験することになるだろうことは、俺も経験上分かっている。
この日は、何だかんだで遅くまで話していたため、翌日起きるのが辛かった。
「お父さん…眠い」
そのせいか、次の日また一緒に寝るとき、カズミはそういうなりもぐりこんであっという間に寝てしまった。やはりまだ子供だ。息子の寝顔を眺めながら、そう思う一瞬だった。
さて、ことのきっかけは、その次の日の朝だった。
休日は二人して寝過ごすことになっている第二土曜、ベッドの中でもぞもぞと動くカズミのせいで目を覚ました。
「……ん?」
薄めを開けておきだしたカズミを見上げたら、やけに焦っていた。これは……。もしかして……。どうやら……。
「ご、ごめん、起こしちゃって。お父さんはまだ寝てていいよ」
焦って早口でまくし立てたカズミが洗面所へ消えていったのを見ると、どうやら予想は当たったようである。つまり、また夢精して下着を汚したのだろう。思春期の男の子なんて、そうやって成長していくもんだ。
そんなことを考えながら、うつらうつらしていたら、カズミが戻って来た。まだ眠いのだろう、ベッドへと潜り込んできた。そこを捕まえて、
「夢精しないコツ、教えてやろうか?」
耳元で内緒話をうつように言うと、真っ赤になって、僅かしてから頷いた。どうやら、俺に夢精がばれていたことが恥ずかしいらしい。初々しい反応だ。
よいせっと言って体を起こし、大きく伸びをしてから、おいで、と風呂場でよくそうするように、カズミを背中から抱きしめた。
「こうするんだ……」
パジャマを脱がそうとすると慌てたが、それを宥めて押さえると、下着も横へと置いて、カズミのまだ成長していないそれを手に取った。
「…っ、お父さん……」
上ずった、慌てた声が耳に届く。
「マスターベーション、とか自慰、って言うんだけどな。……こうやって、夢精する前に、自分でするんだ」
柔らかかったものは、初めての他人の刺激に敏感に反応して、すぐに固くなっていく。腕の中のカズミがびくびくと反応し、時折小さい声を上げるのを聞きながら、しごき続けると先端からとろとろと液体が流れ始めた。
「お、お父さん…! も、もうっ」
カズミのものへと刺激を与えている俺の腕を、初めて与えられる快感に耳まで赤くなっているカズミが掴んで訴える。
「ん? イきそうか?」
どうしても楽しそうになってしまう自分の口調をおさえながら聞き、手の中のものを追い上げていく。
「……っぁあぁ!」
びくびくと痙攣して、手の中に白いものが吐き出される。ベッドへと零さないように受け止め、ベッドサイドにあったティッシュで拭った。ぐったりしてしまっているカズミを優しく覗き込んで、
「気持ちよかったか?」
と聞いたら、バカッ、という言葉が返って来た。みんなしてることだぞ、と茶化すように混ぜ返して、綺麗にカズミのものをティッシュで拭きとってやる。
「……お父さんも、してるの?」
「――――!」
見上げてくるカズミの視線が、あまりにも彼女に似ていて、息が詰まった。一度に記憶が甦り、動きが固まる。どうしたの? といわれるまで、動けなかった。
「あ、あぁ、当然だ」
彼女が居たときは、週に何回かは性生活があったから、ほとんど自分ですることはなかったが、彼女が亡くなっても、哀しいくらい、この生理現象はついてまわった。いやむしろ、彼女が居ないことの埋め合わせをするように、哀しい自慰をくりかえした夜もあった。
心の中には、思い出の中の彼女ばかりが浮かんで、カズミが自分のものを素手で掴むまで、何をされているかに気付かなかった。そう、カズミは俺がカズミにしたことを、そのまま俺にしようとしていたのだった。
「って、何してるんだ!」
慌てても、何を今更という顔をしている。子供が時に大胆になる瞬間とは、今の瞬間のようなことをいうのだろうか。
「だって、僕ばっかりでずるいじゃん! だって、お父さんがどうなってるのか知りたかったし…!」
怒ったような顔を作りつづけていたら、慌てた言い訳が後を追ってきた。まるで、拗ねたときの彼女のようだ。
……。
良くない。一度カズミを彼女に重ねてしまえば最後、思い出さずには居られない。
こう? と尋ねながらカズミが施してくる愛撫に、意識が集中しそうになるのを、理性を総動員させて、必死で耐えた。
最近していなかったせいだろうか、あっけなくカズミの顔に射精してしまったあと、我慢していたせいなのか妙に疲れていた。
それからだった。夜や、時によっては休日の朝、カズミとお互いのものを慰めあうようになったのは。
「最近、パンツ洗わないですんでるよ」
照れ半分で報告してくるカズミに苦笑を浮かべるしかない。俺が、カズミに手を出すのは、時間の問題だった。最初は理性で駄目だと押しとどめていた感情は、回数を重ねるごとに少しくらいなら、という気持ちに押し流されていく。一度始めてしまったら、少しなんかで済むわけはないのに。
「カズミ…SEXって知ってるか?」
腕の中で荒い息を上げ、直接的な刺激に酔っているカズミに声を降らせる。
「知ってる、けど…っ」
男と女でするものだ、という先入観があるのだろう。もっとも、俺のようなバイ嗜好者には関係ないものだが。
「お父さんと、してみるか……?」
「っでもぉ…あ、ぁ……も、だめぇえ――!」
びくんっと背中が波打ち、手の中に暖かいものが広がる。ぐったりとしたカズミが、とろんとした目つきで……彼女に似た目で……見上げてくる。
「出来る、の……?」
その台詞には、疑問は内包されていたが、恐怖や拒否は含まれていなかった。むしろ、期待がこめられているとすら感じた。カズミが放ったものを指にとり、カズミの腰を抱き寄せると、秘められた丘をたどり、奥の入り口を指先で撫でる。
「……っ、お、お尻??」
不安そうに俺の顔を凝視しながらも、逃げることはしない。それをいいことに、一度理性の箍がはずれた俺の行動は、エスカレートしていった。精液で足りない分は、ローションで補い、カズミの中を解していく。
「痛いか?」
「う、うぅん…何か、変……」
子供の柔らかい身体は、柔軟に指を受け入れていたが、やはり異物感があるのだろう。困ったような顔で答えてくる姿は、魅惑的だった。指を二本に増やしたとき、眉をしかめて縋るように、首に抱きついてきたのをそのままにさせ、奥をまさぐると、彼女と付き合ってからは縁の無かった、その中のひっかかるものを見つけた。
「……っ!!」
指をひっかけたのは、前立腺だった。びっくん、と反応するカズミが可愛い。何度も擦ると、強く抱きついてきた。
「や、やぁっ、そこ、やだぁ!」
前には触れていないのに、カズミのものが再びたちあがりかけているのを見れば、嫌だという言葉が嘘なのが分かる。その快感に乗じて、指を増やしとろとろに溶かしていった。
「カズミ…SEXってどうやるか、知ってるか?」
「え、えっと…お父さんのちんちんを…入れるんだよね?」
本当は、お母さんのに入れると習っているはずだが、知識を総動員させて答えるカズミは、高潮していて色っぽかった。
「そう…カズミの、ここに入れるんだ。入れても、いい?」
指を一本、動かせばくちゃりといやらしい音が響く。黙ってこっくり頷いたのを肯定のしるしとして、楽な体勢を取らせるため、カズミを四つんばいにさせた。
「力、抜いてるんだぞ?」
言いながら、ゆっくりと挿入していくが、やはり狭かった。苦しそうにうめき声が漏れるのを、前を指で弄ぶことで、どうにか紛らわし、全てを治めたのは大分時間がたってからだった。
「カズミ…大丈夫か?」
聞いたら、平気っ、という強気な答えが返って来た。ゆっくりと動き出す。馴染んできた中は、絡み付いてくるように熱くて……良かった。ともすれば、一瞬で達しそうになるくらい。
「っあぁ…は、あ……!」
よく分からないまま身体を犯され、カズミの口から嬌声が漏れる。始めは努めてゆっくりと動かしていた腰は、次第に欲望に突き動かされ、その動きを早めていく。
「あ、おとぉさっ…わか、なくなちゃ…よぉお」
がくがくと振るえる身体を押さえ、強く腰を押し付ければ、びくびくと痙攣し、背中が弓なりにそらされる。快感から逃がさないようにと、前に回した手でカズミのものを追い上げながら、我慢しようの無い高まりを感じる。
「はぁ、うあぁ…きもち、いぃぃいぃぃ――……!」
言葉の途中で射精の悲鳴へと変わり、手の中で受け止めきれない液体がシーツへとぱたぱたと落ち、自身を解放した俺の欲望はカズミの中へと放ってしまっていた。
よくなかったのは、それが丁度夏休みの始まりに重なったことだろう。
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